au TOMSはどうしてそんなに強いのか? GT500最大の疑問に迫る。鍵となるのは“積み重ね”……そこに「悟空とベジータ」が応える最強布陣
■“積み重ね”の賜物
2021年までは前任の東條力エンジニアがチームに残っていたこともあり、チーフエンジニア就任から2年は引き続き東條エンジニアの指示を仰ぎながら仕事をしていたという吉武エンジニア。さらに2021年に関してはライバル車両のアクシデントによりタイトルが転がり込んできたという側面も大きかったため、昨年のタイトルこそが「初めて自分で獲ったタイトル」という感覚が強いという。 当然ながら、レースで結果を残すためには“速いマシン”が必要なことは自明。吉武エンジニアは、現在のGT500のマシンパフォーマンスを司る要素の中で、最も肝となるのはタイヤだと語る。 スーパーGTでは今もマルチメイクのタイヤ開発競争が行なわれているため、タイヤ性能は凄まじいと言われる。36号車はGT500を8連覇中のブリヂストンタイヤを履くが、タイヤ戦争が行なわれている関係上、メーカーが開発するタイヤの種類もコンパウンドや構造違いで数多くあり、その中からコンディションに合った適切なタイヤをチョイスして持ち込むことが必要になってくる。 適切なタイヤチョイスをするために、どのようなことを心がけているのかと吉武エンジニアに尋ねると、シーズンオフの間にいかにタイヤをテストできるかが最も重要だと述べた。 「タイヤを選ぶ上で最も重要なのは、ちゃんとテストをできているかどうかですね」 「オフシーズンのテストで“材料”を溜めておかないと、そこから先はタイヤを選ぶ材料になるものがありません。ですから一番大事なのはオフシーズン。そこでしっかりタイヤの評価をしないと、シーズンに入ってからも迷ってしまい、タイヤを決められないと思います」 確かに36号車は、開幕前の公式テストでもライバル以上にロングランに力を入れていた印象があり、このコメントには頷けるところ。吉武エンジニアも「ロング(ラン)をしないタイヤは基本的に選べないですから」と言う。 ただ積極的なロングランをするためには、ある程度マシンセットアップが仕上がっていることが前提になってくるだろう。無論、セットアップで迷走している状態では適切なタイヤの評価ができないからだ。これについて吉武エンジニアは「(セットアップの完成度が)5割くらいの状態で持ち込んでしまうと(セットアップ作業で)テストが終わってしまう。8割9割でタイヤの評価テストをできる状態にしておく必要があるので、持ち込みセットを外さないよう気を付けています」と語る。 持ち込みセットアップを外さないように……これができれば苦労しないというのが、多くのチームの本音ではないだろうか。吉武エンジニアに、セットアップを外さない秘訣を聞くと、そこには過去数年間で積み上げてきた実績が大きな役割を果たしていると答えた。 「2021年にチャンピオンを獲得して、2022年からは自分が(メインで)やっていますが、2022年も坪井選手が予選Q1でトップタイムをマークすることなどがありました。そうやって結果を残すと、そのセットアップが次のベースになります」 「過去の実績を基に少しずつ積み上げていったものが、今のクルマに繋がっています。逆に言えば大きな変化をしなくてもいいと言いますか、『去年のセットにすればタイムが出る』と分かっているので、そこから少しずつ少しずつ積み上げることができます」 そう語る吉武エンジニアだが、筆者も様々なチームに話を聞く中で、実績のあったセットアップを持ち込んだにもかかわらず、当時とは異なるコンディションなどに悩まされてセットアップがうまく決まらないといった話もよく聞く。36号車でそういったことはないのかと尋ねると、吉武エンジニアはこう答えた。 「そこはフリー走行の中でコンディションに合わせて少しずつ変えていけばいいですから。そこで大きくジオ(サスペンションジオメトリ)が変わるとか、そういったことはありません」 「(今季開幕戦の)岡山であのような結果を残せたので、(第2戦の)富士に向けては、そこをベースにちょっとずつ改良していけば、それより遅くなることはないので」 タイトでコンパクトな岡山と、ロングストレートのある富士では、コース特性も異なるため、求められるセットアップの方向性は異なるのではないかと感じられる。そこについて尋ねると、吉武エンジニアは根幹となる部分は変わらないと話す。 「大きなベースは一緒で、そこから空力や車両の姿勢などを調整します。富士だとストレートを速くするために姿勢を変えたり、ウイングの角度を変えたりします」 「岡山で結果が全く出なかったとなるとゼロからのスタートになり、富士ではどうしようかと悩んでしまいます。ですから毎年結果を残しているということが、次に繋がっている部分もあると思います。昨年の(第7戦)オートポリスで勝ったことが(最終戦)もてぎに繋がり、もてぎで勝ったことが岡山に繋がっています」
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