お腹に胎児、長~い首。恐竜の奇妙な祖先?三畳紀ディノケファロサウルスの謎
胎生を行っていた最古の爬虫類
そして、今回のJun Liu博士率いる研究チームはもう一つ非常に興味深い事実を報告している。 前ページの写真にある立派な骨格化石の標本は、もう一つ別の個体(骨格) ── それも極端に小さいもの ── を、お腹にあたる部分に備えていた。骨の形態を比較してみると、両者はどうも同一の種らしい。小さな個体は大きなモノの10%くらいのサイズだという。 どうも、母親とまだ生まれる前の胎児が運悪く命を落とし、両方の個体が一緒に化石として保存されたようだ。 この二つの骨格化石をもとに、研究チームはディノケファロサウルスが「胎生を行っていた」と結論づけている。爬虫類にもかかわらず、我々哺乳類と同じような生殖方法を行っていたわけだ。 爬虫類は基本的に硬い殻に覆われた卵を産む。しかし、例えば日本の毒蛇マムシのようにいくつかの「現生」爬虫類の種は、赤ちゃんを直接産み出すことが知られている。ある研究によると、この胎生は115の種及びグループに見られる(Blackburn 2015)。その全てがトカゲとヘビを含む一大グループ「鱗竜類(Lepidosauria)」に限られているそうだ。 ―Blackburn, D. G. 2015. Evolution of vertebrate viviparity and specializations for fetal nutrition: a quantitative and qualitative analysis. J. Morphology. 276, 961-990. 爬虫類の3億年近くに及ぶ膨大な化石記録において、この「胎生」という生殖方法はどれくらい知られているのだろうか? 基本的には魚竜やモササウルス類(海トカゲ)等のように、完全に水中で生活していたと考えられるものの中に、よくその証拠が報告されている。この事実は今回のディノケファロサウルスの標本のように、母親と胎児が一緒に化石化されていることでしか、直接確認できない。しかしどちらもヘビ・トカゲ類(鱗竜類)やディノケファロサウルス(主竜類)とは、まるで別の鰭竜類(きりゅうるい)に属す。 進化上、胎生は海生及び水生爬虫類類に広く見られる特徴なのかもしれない。しかしカメやワニなどたくさんの例外(卵生)も知られている。胎生から卵生へ、またはその逆。こうした進化上の移行プロセスは、具体的にどのように起きたのか、非常に興味深いところだ。 そして今回の研究チームはこのディノケファロサウルスが、知られている限り「最古の胎生を行っていた爬虫類」という事実を指摘している。 恐竜やワニ、鳥そして翼竜を含む中生代の覇者とさえ呼ばれる主竜類。三畳紀前半、初めてその祖先が出現した時期に、すでにかなりの多様性を誇っていたという可能性を今回の発見は垣間見せているように(私には)映る。 その登場時に主竜類は、後の大躍進のカギとなるような武器(=解剖学上の新しいデザインや行動様式)を、すでに大がかりに探っていたのかもしれない。そして自然選択というふるいにかけられ、(おそらく)運よく生き残った者たちに、後の多様性をもたらすことにつながったのかもしれない。 今回の新事実の発見をもとに、新たな研究が将来行われるかもしれない。