お腹に胎児、長~い首。恐竜の奇妙な祖先?三畳紀ディノケファロサウルスの謎
三畳紀における初期アルコサウルス類の多様性
陸地だけに生活の場をもとめ、そして爆発的な多様性を遂げた恐竜たち。その遠い祖先にあたる初期主竜類(=主竜形類Archosauromorpha)の中に、水中生活に適した種がいくつかいた事実をご存じだろうか? 例えば中国安徽省の合肥工業大学のJun Liu博士は、中国から発見された非常にユニークな初期主竜類「ディノケファロサウルス(=ダィノセファロサウルスの音に近い):Dinocephalosaurus」の化石を報告している(Liu等2017)。 ―Liu, J., C. L. Organ, et al. (2017). "Live birth in an archosauromorph reptile." Nature Communications 8: 14445. 複数の骨格化石の標本は、中国の最も西南部に位置する雲南省から見つかる。地理的に四川省やチベット自治区、ベトナム、ミャンマーに囲まれており、北西部にはチベット高原・横断山脈から連なる山岳地帯が広がる。下の写真はLuopingと呼ばれる化石現場を写したものだが、小高い山々が背景にみえる。なかなか壮観な景色の場所のようだ。ちなみに雲南省はプーアル茶の産地として知られ、この辺り一帯はとてもスパイシーでおいしい四川料理の本場でもある(化石とは何の関係もないが)。
さて、この動物ディノケファロサウルスに直接出くわすには、主竜類の仲間が初めて出現した三畳紀(約2億5000万年―2億100万年前)までタイム・スリップする必要がある。 化石が直接見つかった地層の年代は2億4400―2億4500万年前と推定されている。これは三畳紀中期にあたり、知られている限り最古の恐竜記録(約2億3000―2億400万年前)より少し古い時代にあたる。 Jun Liu博士からいくつかの貴重な写真を直接分けていただいた。まず今回の研究の対象になった骨格化石の標本には、かなり細長い線のような骨がつながって並んでいる(上の骨格化石の写真参照)。かなり細かな骨もきれいにたくさん保存されていることが分かる(この詳細は次のページで述べる)。 この骨格化石の標本などをもとにしたディノケファロサウルスの復元イメージを、この記事の冒頭カバー写真に使わせてもらった。今回の研究チームによって作成されたものだ。是非、あらためてじっくりとご覧になっていただきたい。 真っ先に目を奪われるのは、その特異な体つきだろう。ろくろ首のように非常に長く伸びた首は、体長の50%以上に達した。そしてその先には小さな頭がぽつんと申しわけなさそうについている。 首の骨を一つ一つ調べると、それぞれのモノが極端に長く伸びていることが分かる。しかしトータルの首の骨の数は、首の短い他の主竜類のものとほとんど変わらない。 ろくろ首のような姿は、どことなく白亜紀の海洋に現れたフタバスズキリュウのような「首長竜」のイメージと重なって見えなくもない。しかし先述したように首長竜は、主竜類とはまるで別の絶滅した爬虫類グループ「鰭竜類(きりゅうるい)Sauropterygia」に含まれる。頭や歯、手足などの細かな骨の形態もまるで違う。体のサイズも両者においてはっきり異なる。首長竜は首の長さだけで10mを超える種がいくつもいたが、ディノケファロサウルスの体長は3.5mに満たない。 そして、恐竜を含む他の主竜類の中でも首の長いものと言えば、アパトサウルス(Apatosaurus)やブラキオサウルス(Brachiosaurus)など、超大型の草食恐竜「竜脚類(Sauropoda)」を思い出されるかもしれない。しかしディノケファロサウルスは、非常に華奢な体の造りをしている。体のサイズもかなり小さい。 さらに重要なことに手足は非常に短く繊細な構造をしている。ディノケファロサウルスは、アパトサウルスのように象の様な丈夫な四脚で、のしのしと地響きをたてながら大地を闊歩(かっぽ)していたわけではなかったようだ。 様々な証拠はこの首長のディノケファロサウルスが、実は太古の海岸線沿いの浅い海で生活していたことを示している。独特の細長い首は魚を素早く捕らえるのに役立ったとするアイデアさえ、古生物学者によって提案されている。泳ぎもかなり達者だったはずだ。 「長い首」が多数の爬虫類の様々な進化系統グループにおいて、それも別の時代に生じたという事実。爬虫類の進化上、首長化は何度も繰り返し、単独で起きた可能性を暗示しているようだ。キリン(=哺乳類)の長い首を見て、爬虫類であるディノケファロサウルスと「近縁の種」だったという結論には、すぐ結びつけられないのと同じ理屈だ。