「自主映画だと怪しい配給会社に騙されて…」単館上映から大ヒットした「侍タイ」監督が自分1人で映画館と交渉を始めた“切実な理由”
「怪しい配給会社があるんです」
安田 本当に驚きました。2つのシネコンさんに加えて単館の映画館からも依頼がいっぱい来て、トータルで50軒くらいまでは自分1人で決めました。この方法のいいところは、ヘンな配給会社にだまされんですむことです。自主映画だと、怪しい配給会社に「300万円くらいで、全国で何館か上映を決めてきますよ」とか言われて、伝手もないから頼んでしまうことがよくあるんですわ。 でもよく考えたら、単館系の映画館なら1館あたり1週間20万ぐらい払えば上映できるんですよ。だから本当は100万円あれば5館くらいは上映できるはずですよね。それなのに200万とか300万とか言いよる怪しい配給会社があるんです。 ――自主制作という立場の弱さの足元を見てくる配給会社があるんですね……。 安田 でも今回、配給会社を介さなくても映画が面白ければシネコンが直接買ってくれるんやという証拠ができたから、これから自主制作で映画を撮ってだまされる人が少しでも減ってほしい。ただ上映してくれるところが増えてきてさすがに手が回らなくなったので、GAGAさんに配給として入ってもらうことにしました。 そこからはGAGAの方が本当に頑張ってくれてあっという間に上映館が300以上に。TOHOさんも盛り上げてくれて、しかも最初から上映してくれてた池袋のシネマ・ロサや川崎のチネチッタとカブらんようにしてくれて……。映画業界の人情を本当に感じました。
「制作費の3倍くらいの興行収入があればいったん黒字にはなるんです」
――まさに大ヒットですが、制作費の2600万円はペイしたと思っていいんでしょうか。 安田 もちろんです。興行収入の振り分けは、だいたい半分が映画館に入って、残りの50のうち10%が配給会社、40%が制作に渡るイメージです。だから、制作費の3倍くらいの興行収入があればいったん黒字にはなるんです。今回は大黒字です。 ――それを聞いて安心しました。 安田 自分は『カメ止め』を本当に尊敬してるんですけど、あの映画は真似したらあかんところが1つあって、映画を作るお金は絶対に自分で出さなあかん。『カメ止め』はワークショップで作った映画だったので、上田(慎一郎)監督や俳優にほとんどお金が入っていないんです。だから『侍タイ』は、車を売ってでも自分でお金を出して作りました。あと、映画にも出演してる沙倉ゆうのちゃんが少し出資に入っています。 ――沙倉さんは安田さんの映画会社のスタッフでもありますよね。 安田 そうなんです。出資の経緯もおもろいんですけど、制作中に銀行に行く時間がなくて、ゆうのちゃんに100万円立て替えてもらったことがあったんです。数日後に返そうとしたら「まだ返さなくていいから、映画が当たりそうだったら出資にさせて?」と頼まれました。それで試写会でお客さんが笑っているのを見て「このあいだの100万円、出資にする!」と。たくましい人やなぁと思いましたね(笑)。ゆうのちゃんや配給さん、映画館さん、俳優さんとかいろんな人に助けてもらい過ぎて自分の手柄だとは思えないですけど、とりあえず次の映画もお米も作るくらいのお金は残せそうでほっとしてますわ。 「ショックを受けてこれはもうおしまいやなと」“伝説の斬られ役”福本清三さんの死で頓挫しかけた映画を完成させた「重鎮の一言」とは へ続く
田幸 和歌子