「自主映画だと怪しい配給会社に騙されて…」単館上映から大ヒットした「侍タイ」監督が自分1人で映画館と交渉を始めた“切実な理由”
「1割も成功率がないものに2000万も投資するなんて無謀」
――『侍タイ』のヒットにお米の運命もかかっていた。 安田 そうなんです。自分としては『カメ止め』の成功を見て勇気づけられたところもあったので、今回はお金を全部突っ込みましたけど、よう考えたらかなりの博打ですよね。普通の商売やと7割くらいは成功率がないと投資できないやろうけど、自主制作映画なんて1割も成功率がないようなものに2000万も投資するなんて無謀です。もちろん自分なりにはいろいろ研究したけど、こんな風にヒットしてもらえるのは奇跡だと思ってます。 ――『カメラを止めるな』のヒットは自主制作映画の世界でそれほど大きなことだったんですね。 安田 そりゃそうですよ。ただ『カメ止め』に勇気はもらったけど、あんな発明のような大胆な構成や脚本は自分にはとても作れへん。だから自分が目指したのは「『カメ止め』のように劇場の中でゲラゲラお客さんが笑って最後拍手してくれる映画」。脚本や主砲はオーソドックスでも、クオリティーを上げていくことであの域に到達することができるんやないか、というのが勝負でした。あとは、『カメ止め』を1回きりの奇跡にしないのが大事やと思ってました。 ――どういうことでしょう? 安田 『カメ止め』の大ヒットは自主制作で映画を作る人間に希望を与えたんですけど、「『カメ止めは』特別で、あんなことはもう二度と起きない」となってしまったら寂しいじゃないですか。だから、ちゃんと頑張れば再現できるんだということを証明したかったんです。 ――最初は配給会社もなしで池袋シネマ・ロサの単館上映だったところから300館以上の上映になり、まさに再現できることを証明しましたね。
安田 シネマ・ロサの担当者が「今年一番の作品にする」と意気込んでくれて、お客さんも応援してくれて、TOHOシネマズの担当者や配給会社のGAGAが全国でやろうと言ってくれて。その人たちの頭にも『カメ止め』のヒットの記憶があったのは間違いないです。でも実は、配給会社にお願いする前に自分の力で「ここまではやろう」と決めていたことがあるんですよ。 ――何を決めていたんでしょう。 安田 自分1人で大手のシネコンと話して、上映館数を決めてもらうことです。最初に松竹さんがのってくれて、その後にTOHOシネマズも声をかけてくれました。感動したのは、最初に声をかけてくれはった松竹さんが上映館を決めるまで、TOHOさんが待ってくれたんです。 あんな大きなシネコンさんに「ちょっと待ってくれ」なんて、どれだけ失礼なことを言ってるんだと心配になったんですが、松竹さんがまず14館ええとこを決めてくれて、それを見たTOHOさんが松竹さんとカブらない映画館を選んでかけてくれることになりました。シネコンの方々が、ちゃんと映画のことを考えてくれるのが本当にうれしかったです。 ――ライバル同士で対立しそうなところ、より多くの観客に届けられる形にしてくれたんですね。