なぜ日本では更年期障害の「ホルモン補充療法」が普及しないのか?理由を知るための手段のひとつ「学会」でのリスキリングとは
学会に参加する意義、学び以外に「横のつながりを作れること」も大きい
――学びから離れた私たちの「学びなおし」という視点で伺います。スクール等ではなく敢えて学会に参加することにどのような利点があるでしょうか?個人的には「なんかカッコいい」という点も見逃せませんが(笑) 医師にとっても、学会は最新知識を得る場であると同時に、横のつながりを作る場です。メノポーズカウンセラーは現在3~400人、学会員が550人くらい、多くが自身の知識の整理のためにカウンセラー資格を取得し、研修を受けています。そのため、学会側も研修事業に力を入れています。 「人生100年時代」とは、女性ホルモンのサポートを受けられない時間が更年期の50歳以降、人生の半分残っているという意味でもあります。そこにHRTはじめ医療的なサポートを選んで受けられるようになればまた違った人生が開けてくるでしょう。心身ともに健康な状態を長く保つことがある程度できるのだと、先端の正しい知識を獲得できるのがまず第一。 もうひとつ、新しい体験をしながら、新しいつながりを作る魅力も見逃せません。若いころはぼくたちも、学会では自分の発表を無事終えることで精一杯でした。先日金沢で開かれた不整脈学会に行ってきましたが、今でも自分の発表が終わったらほっとします。そして、ほっとした後に出かける観光は昔も今も格別で(笑)。夜に開かれる懇親会でいろいろな先生とお話をして横のつながりを作り、新しい知識を教えてもらうのも大事な仕事のひとつです。メールアドレスを聞いておけばあとから質問を送れます。 ――時間のない中、学び方という点ではどうでしょうか。 最新の知識というものは、その分野ごとに効率的な取得方法があります。医師ならば普段は医学論文を読みます。大抵は大学病院勤務時代、教授から週1回1時間ほどの抄読会の薫陶を受けます。教授が世界中の論文から大事だと思うものを6つほど選んでくれるのですが、これが若い医師の論文の読み方のトレーニングを兼ねているんですね。その後開業したり、病院勤務になると、個人での勉強に移行します。このとき大切になるのが横のつながりで、自分がわからないことを相談する相手を作っておくことが重要なのですね。 メノポーズカウンセラーは更年期障害という病の状態に寄り添うプロとして、過労で燃え尽きないようにしつつ自分の知識を再充填できる時間も作り、新しい知識を顧客に提供していく意識が大事だと思います。ですが、医師もいちど開業してしまうと毎日の仕事に追われてなかなか勉強の時間を作るのが大変です。なので、あとは「やり方」なのだと思います。 ――勉強する時間の確保という意味でしょうか。なかなか学習を1日のルーチンに組み込めないため、一度の参加で一定知識を得られる勉強会は魅力です。 私は北海道で開業しており、学会の北海道支部を運営しています。一般の方々も北海道支部が開くオンライン勉強会に参加していて、メールで質問を受けることがあります。なるべく参加者みなさまの質問に答えられるよう、勉強会のあとはオンライン懇親会を設けて座談会のように話をしています。それでも足りなければあとでメールをいただき、それにお返事することで、自分自身の知識を深めていく場を作り出しています。わからないことを誰かに聞けるパイプがあることは非常に大事なことで、学会は参加するだけでそのパイプを作るきっかけが生まれるのがうれしい点です。 私は「日本更年期と加齢のヘルスケア学会」第22回学術集会の学術集会長に任命をいただきました。いわゆる「学会に行く」というのがこの学術集会です。今回はオンライン開催ですが、各シンポジウムに討論の時間をとっており、ここで飛び交う討論を聞いているだけでも役に立ちます。対面には対面のよさがありますが、昨今は学会もオンデマンド配信を用意している場合が多く、手軽な分だけよい勉強の手段になるでしょう。 ――しかし、仮にオンラインでも、知らない方々とご一緒することになるのはちょっと緊張します。いきなり参加してもいいのですか? どのような学会なのかを知るために学術集会に参加してみるというのも意義があります。もし参加してみて興味を持てたら会員になり、研修会に参加してみるのもいいと思います。また、会員にならなくても、支部の勉強会ならばどなたでもOKというスタンスの場合があります。当学会にはメノポーズカウンセラーを志す方が多く属していますから刺激も受けられ、どうせ勉強するならカウンセラー資格も取りたいと考えるようになったら、ある程度勉強して試験を受ければその分だけ知識が身についていくでしょう。 最終的には自分の知識を深めて健康管理に役立て、また周囲の役にも立つことが目的です。かつては更年期の症状も数年我慢すれば抜けていくと考えていましたが、いまは積極的に治療して、自分の人生の目的をなるべく成就しよう、女性がそこでキャリア諦めることがないようにと社会も会社も対策を始めるようになりました。女性が活躍する社会にならないとこの先よりよい日本への道が開けません。大いに期待しています。
オトナサローネ編集部 井一美穂