「わかるよ、クソだよねこの世界は」――米コロナ病棟で命に寄り添う、日本人牧師の奮闘
You made my day !
関野さんはときどき患者やその家族に声をかけられるようになった。 「You made my day ! なんて言われるんです」 直訳すれば、「あなたが私の一日を作ってくれた」。転じて、会えてよかったことを表現する、感謝の言葉。 「コロナ病棟でも集中治療室でも、どこかで誰かが、毎日必ずそう言ってくれるんです」 チャプレンもまた、患者や家族に救われているのだ。
アメリカのコロナ病棟に羽ばたく千羽鶴
「ユーモアとアイデア。それがカズじゃないかな」 バーグ牧師は言う。クリスマスを前にして、関野さんはコロナ病棟に千羽鶴のツリーを立てることにした。患者に折り鶴を手渡したところ、涙を流して喜んでくれたからだ。病棟にも提案し、日本の友人たちに知らせてみると、あっという間に1万を超える折り鶴が寄せられた。
「アイデアを形にして、他者のために使う。そんなカズだから、病院のみんなも彼に心を開くんでしょう」 まだまだ経験は浅い。語学力も足りない。それでも日本人の感性と、あのとき妹の傍らに立ってくれた牧師の姿を思い出しながら、コロナ患者を抱きしめる。 「ソーシャルディスタンスの世の中ですが、だからこそコロナに苦しむ人々がいれば、誰かが抱きしめなくちゃならないし、一緒に泣かなくちゃいけない。僕はスピリチュアル・ディスタンスって呼んでいますが、チャプレンとして何よりそこを大切にしたいと思っています。毎回毎回、びびるんですけどね」 関野さんの目標は、この経験をいつか日本に伝えることだ。 「チャプレンのノウハウやメソッドを日本に持ち帰って、後進を育成したい」 そのために、今日もコロナ病棟に立ち続ける。
※個人情報の観点から、患者についての情報は一部で修正を加えています。 室橋裕和(むろはし・ひろかず) 1974年生まれ。週刊誌記者を経てタイ・バンコクに10年在住。帰国後はアジア専門の記者・編集者として活動。取材テーマは「アジアに生きる日本人、日本に生きるアジア人」。現在は日本最大の多国籍タウン、新大久保に暮らす。おもな著書は『ルポ新大久保 移民最前線都市を歩く』(辰巳出版)、『日本の異国 在日外国人の知られざる日常』(晶文社)、『バンコクドリーム 「Gダイアリー」編集部青春記』(イースト・プレス)、『おとなの青春旅行』(講談社現代新書、共編著)など。