「わかるよ、クソだよねこの世界は」――米コロナ病棟で命に寄り添う、日本人牧師の奮闘
アボット・ノースウェスタン病院に勤めるチャプレンは、関野さんも含めて9人。ミネアポリスを代表する病院だけあって、毎日50人前後のコロナ患者が次々に運ばれてくる。医療崩壊を防ぐために軽症者は自宅療養となっているから、重篤な感染者がほとんどだ。苦しげにあえぐ患者でいっぱいのコロナ病棟の担当を「新人」の関野さんは敢えて志願した。 「大統領選の混乱、人種間の分断、コロナ禍と、いまアメリカは100年に一度の危機だと思うんです。せっかく来たんだから、その最前線を知りたいと思って」 コロナ病棟から「精神的に不安定になっている患者がいる」と連絡が入ると、すかさず関野さんの出番となる。防護用の装備に身を固め「びびるな」と自らを奮い立たせて病棟に入れば、そこはまさにアメリカだ。
ホームレス、ドラッグ中毒、離婚協議中で揉めに揉めている人、トランスジェンダーでうつ病に苦しみ、自殺願望を抱えたコロナ患者も運ばれてくる。暴れだす患者だっている。それでも関野さんは恐れをしまい込んで、彼らの肩を抱く。 「わかるよ、クソだよねこの世界は。この病室も窮屈で、俺も牧師なのにこんな格好でごめん。でもさ、3分間ここにいるから、なんでもいい。吐き出してくれ。ぶつけてくれ。だから3分たったら、少し落ち着かないか」 聖職者らしからぬことだってときには言うが、それが関野さんのスタイルだ。そこに患者は安堵し、涙を流して苦しみや不安を吐露する。関野さんはひとことひとことにうなずき、しばし一緒に過ごす。 ときには、呼吸が乱れマスクもできない患者に懇願されることもある。 「不安なんだ。手を握ってほしい」 手袋越しではあるが、しっかりと手を握りしめて、孤独ではないことを伝える。感染のリスクを常に抱えながら、関野さんはコロナ病棟を行き来する。
チャプレンはアメリカの多様性の象徴でもある
「チャプレンは壊れそうな心を包み、涙を吸い取る、魂のスポンジやティッシュのような存在だと思っているんです」 だが、その精神的負担は計り知れない。とくに患者を看取ったあとは、数時間立てなくなる。そんなとき待機室に戻ると、同僚のチャプレンがお茶をいれて待っていてくれる。どんな気持ちで「戦場」から戻ってくるのか、ちゃんと知っている。なにがあったのか、聞いてくれる仲間がいるから働ける。 「同僚のチャプレンのうち、3人がソマリア人のイスラム教徒なんです」 ミネアポリスは内戦の続くソマリアから逃れてきた難民の多い街でもある。そのひとりモハメド・アブドラヒさん(57)は、イスラム教のイマーム(聖職者)であり、チャプレンでもあり、いまでは関野さんの同僚であり友人だ。 「同業者としてのカズは、ともに働きやすいグッドガイだと思うよ。でもキリスト教の聖職者としては、どうなのかわからないけどね」 なんて愉快そうに笑う。