製作費2,000万円は自腹!たった1館から大バズり『侍タイムスリッパー』安田淳一監督が振り返る“崖っぷち”の映画製作
「『蒲田行進曲』は“階段落ち”というクライマックスが有名です。『侍タイムスリッパー』で階段落ちに匹敵するクライマックスを考えた時、真剣を使って殺陣を撮影するというアイデアが浮かびました。そしたら対立関係が見えてきて、どうすれば自然にその関係性を描けるかということで、佐幕派vs倒幕派の構図が生まれました。2時間ほどで(物語の)原型ができあがって、それを一緒にラーメンを食べに行く仲間に話したところ、『面白い。絶対にやった方がいい』と言われました。そこから1年ほどかけて脚本を仕上げていきました」
長編デビュー作『拳銃と目玉焼』の製作費はおよそ750万円、2作目『ごはん』は約400万円ほどだったが、『侍タイムスリッパー』は両作をはるかに上回る2,600万円を費やした。「正直もう大変でした」と苦笑した安田監督は、車を売却して2,000万を自腹で支払い、残りの600万円は補助金でカバー。初号完成時、銀行口座の残高はわずか7,000円だった。
「コロナ禍で仕事がない中で(本作を)製作していました。というのも、紹介いただいた東映京都撮影所のプロデューサーさんが、その年で退職すると言うことで、撮影はその年でないといけなかったんです。その方がいろいろと助けて頂いたおかげでなんとか撮影に入れました」
山口馬木也&冨家ノリマサ、映画を支えたベテランたち
物語の主人公・高坂新左衛門役には山口馬木也、キーパーソンとなる風見恭一郎役には冨家ノリマサというベテラン俳優が抜てきされた。新左衛門について「脚本を書いた時点で、すごく好ましいキャラクターだと思ったんです」と打ち明けた安田監督は、故・福本清三の性格をキャラクターに重ねたと語る。 「新左衛門は劇中、自分がタイムスリッパーだとは一度も言いません。あれは、福本さんそのまんまです。自分のことで周囲を騒がせることは嫌だった人なので、そういった性格を新左衛門に投影させています」
幕末からタイムスリップしてきた新左衛門は、現代で目撃するあらゆる物に驚き、次第に魅了されていく。彼の純粋な眼差しやリアクションは愛らしく、上映中に笑いが起こることも。安田監督は「馬木也さんの解釈や表現のさじ加減がものすごく良かった」と山口の演技を絶賛する。「キャラクター本人になり切って演じるメソッド演技の実力者です。例えばケーキを食べて泣くシーン。このような演技は、役者さんが過去の悲しい経験を思い出すことが多いですが、馬木也さんは新左衛門になりきっているので『この国は、みんながケーキを口にできるほど豊かになった』と新左衛門の気持ちで泣いてるんです」