60代女性が海外ひとり旅デビュー。勢いに任せ申し込んだイタリアのツアー、着く前から越えねばならぬ壁が幾重にも…
◆旅行前の不安で体調にも影響が… 書類に必要事項を記入するだけで一大事。思えば、このような手続きさえ自分でしたことがなかった。それでも、申込書をポストに投函すると、賽は投げられた、とばかりに気持ちが定まってくる。 私はイタリアへ行く。たったひとりで。『ローマの休日』の舞台やフィレンツェの大聖堂、ナポリの青い海……憧れの景色が私を待っている。 海外旅行保険や海外で使える携帯電話の契約など、準備しなければならないことを、一つ一つクリアしていく。それだけで、日本にいても、もう旅が始まっているみたい。少しずつ自分が成長しているような充実感があった。 でも、外国の地に8日間もひとりでいることに耐えられるだろうか。治安が悪い地域で迷子になったらどうしよう。やっぱりキャンセル料がかかってもいいから、やめようか、という思いがよぎる。 不安は、体調にも影響するのか、頭痛がしたり、全身がだるくなったり。ぐっしょりと寝汗をかき、一晩に2回着替えたことも……。 出発2日前、宅配業者が来て、スーツケースが一足先に成田空港へと旅立った。わが身の一部が先に行ってしまった気分。もう後戻りはできない。 そして迎えた当日の朝、ハンドバッグひとつの軽装で、空港に出発。ああ、家から駅へ向かうこの一歩一歩は、すでにイタリアへの道なのね。
◆ひとりぼっちの機内で話しかけたのは 成田空港の指定された集合場所には、添乗員も、ツアー客もいない。不安になりながら、カウンターで搭乗券を受け取り、ひとりで出国手続きを済ませ、搭乗ゲートへ。 これまでの経験では、添乗員さんが集合場所で待っていてくれて、指示に従ってぞろぞろと歩けばよかったのだが──。ツアーという実感がまったく持てない。私のお仲間は一体どこにいるの? 搭乗後間もなく、今回のツアーの添乗員だという女性が、自分の名前と座席番号を知らせにきてくれた。通路を挟んだ別のツアーの一行には、たびたび担当の添乗員さんが回ってきて、何かと心遣いをしてくれているようだ。 一方、私のツアーの添乗員さんは最初の挨拶以降、姿を見せない。左隣も、通路を挟んだ隣も外国の人で、長い間まったくの孤独状態。 沈黙に耐えきれず、とうとう隣の外国人女性に拙い英語で話しかけた。私はツアーに参加しての旅行なのだが、仲間がどこに座っているのかわからなくて心細い、というようなことをポツポツと。彼女は空手の大会のため、スイスから弟といっしょに日本に来たらしい。彼女は不安な私の話し相手になってくれた。
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