被疑者の実名を報じる週刊誌も 少年法と実名報道をどう考える? ノンフィクションライター 藤井誠二
情報の正確性を担保するために、報道は実名報道が原則とされる。しかし、犯罪被害者の人権、風評被害の恐れ、プライバシーの権利との調整などを考慮し、人物に関する情報が匿名で報道されるケースも多い。また、犯罪報道では、被疑者が未成年である場合、少年法61条において、本人を特定できる情報を出版物に記載することが禁じられている。しかし、罰則がないために、被疑者が未成年の殺人事件がおきると、一部のメディアでは実名での報道が行われることもある。実名報道をどう考えればいいのか。ノンフィクションライターの藤井誠二氏に寄稿してもらった。 ------------------ 名古屋大学に通う19歳の女子学生が「人を殺してみたかった」という「動機」で、宗教の勧誘に来ていた老女を手斧で殴り、マフラーで絞殺、風呂場の洗い場に死体を放置したまま宮城県の実家に帰省していた事件が発覚した。女子大学生は、ツイッターに「ついにやった。」などと犯行当日に書き込み、過去の「著名事件」の加害者に共鳴するような書き込みをしていた。 この女子大学生は、ツイッターのアカウントは加害者の本名(姓)であったが、この学生の写真と実名を「週刊新潮」が報じた。よく知られているように、少年法は未成年者の犯罪につい、保護矯正の観点から身元の特定される報道を禁じている。一方、2000年2月には、大阪高裁で、「社会の正当な関心事であり凶悪重大な事案であれば実名報道が認められる場合がある」との判断が下され、「違法性なし」の判決が確定している。司法も変化しつつある、と言える。 いわゆる「実名報道」の問題を、どのように考えればいいのだろうか。
少年法61条と実名報道に対する司法の判断
週刊誌の未成年実名・顔写真報道はもちろん、今回が初めてではない。1998年に発覚した東京の足立区で起きた「女子高校生監禁殺人」事件では、主犯格ら4名の少年について「週刊文春」が連日に渡って実名で報じた。 先に触れた大阪高裁の判断は、新潮社が「新潮45」で報じた「堺市通り魔殺傷事件」の加害少年の実名を報じたことに対する裁判の判例である。事件は1998年に当時19歳の少年がシンナーで幻覚状態になった状態で、通りかかった幼稚園児ら3名を殺傷したというもの。少年本人が、記事を執筆したノンフィクション作家・高山文彦氏と新潮社に対して損害賠償請求と謝罪広告を求めていた。 少年法61条は、非行(犯罪)を犯した未成年者を推知することかできる情報──実名や容貌、住所、学校名等──を新聞やその他の出版物に載せてはならないと定めた条項だ。1審の大阪地方裁判所判決は少年法61条に基づいて大筋で少年の主張を認め、「成人に近い年齢であったからといって、少年に該当する年齢であった原告を他の少年と区別すべき理由となしうるもの」ではないとし、「法的保護に値する利益を上廻る公益上の特段の必要性」も認めなかった。が、同時に「例外なく直ちに被掲載者に対する不法行為を構成するとまでは解しえない」と不法行為ではないと含みを残した。