「銀行にニーズなんてあるか?」千葉銀行が気付いた“客が本当に望んでいたもの”とは
● 独自のDXトレーニー制度を展開 ITベンダーなど異業種への出向で即戦力化 千葉銀行のDXを語る上でもう一つ欠かせないのが人材育成だ。公募制で5~9カ月ほどITベンダーや異業種に出向してスキルと銀行以外の視点を身につける、独自のDXトレーニー制度を導入している。 以前は人材戦略室長だった柴田さんは、「座学の研修は一時的な効果しかない。実際の業務に携わり、手を動かしてこそ身に付く」と、こだわりを持って取り組んでいる。目下の目標は、100人のDX人材を育てることだが、2024年5月末の取材時点で70人に達している。 データ統合サービスを提供するダイナトレックに出向した窪田禎之さんも、その一人だ。「ダイナトレックを新規導入する地方銀行にうかがい、システムの要件定義から構築、データ分析に携わりました。他行の担当者の方と議論を重ねながら作業を進めていく、密度の濃い5カ月でした」と振り返る。 ITベンダー側の視点を学べたことも大きな収穫だったという。「私たち銀行がどんなふうにオーダーすればスムーズに動きやすいのか、身をもって理解できました」(窪田さん) ダイナトレックの佐伯卓也さんは、「窪田さんには当社のエンジニア同様に働いてもらった」と振り返る。千葉銀行はダイナトレックにとって顧客でもあるのだが忖度はない。厳しい案件も一緒に乗り越えたという。 このDXトレーニーのもう一つの特徴は、千葉銀行に戻った後の業務を決めてから出向先に送り出すことだ。明確な目標があってこそ愚直にスキルを習得し、即戦力となって帰ってくる。窪田さんも、現在はマーケティング戦略グループの一員として、データ分析に従事している。
● 全員参加で描く 千葉銀行のDXの未来とは? 千葉銀行のDXは、今後どのような展開を見せるのだろうか。柴田さんは、非金融事業での価値創造を改めて強調する。 「銀行の支店に設置されたサイネージに地域企業の広告を出す取り組みが好評です。これまで140社に活用いただいています。また、2024年1~3月に実施したメタバース空間で住宅展示場を展開するPoCは、1300人が訪れてくれました。これはもっと本格的にやろうと計画中です」(柴田さん) イノベーションの種は、デジタル戦略部以外の職員からも生まれている。全職員と内定者を対象とした初のアイデアピッチコンテストでは、65件に及ぶ新規ビジネスのアイデアが寄せられた。今は銀行が大きく変わっていく過渡期。グループ全体で変革の機運を高めていく考えだ。地域に根ざした銀行が、いかにDXを進め、新たな価値を創造していくのか。千葉銀行の挑戦は、一つの道筋を示唆している。
酒井真弓