「銀行にニーズなんてあるか?」千葉銀行が気付いた“客が本当に望んでいたもの”とは
● 「これで誰が幸せになるの?」 元DX担当の頭取と、毎週2時間の真剣勝負 「面白い銀行」という指針を得て、柴田さんらはようやくスタートラインに立った。「面白い銀行」とは一体どんな銀行なのか。ここからは、新しい顧客体験の創造に向け、グループCEO(頭取)の米本努さんと毎週2時間に及ぶ議論を重ねた。 米本さんは、グループCDTO(Chief Digital Transformation Officer)として千葉銀行のDXをけん引し、2021年に頭取に就任した。デジタルは有用だが、あくまで手段に過ぎないと身をもって実感してきたからこそ、より顧客に提供できる価値を重視しているという。「トップの深い理解が今の戦略につながっている」と柴田さんは語る。 「頭取との時間は、ふわっとしたところがあると『これで誰が幸せになるの?』と鋭い質問が飛んでくる、膝詰めの真剣勝負でした。一方で、お客さまが幸せになる根拠が示されると、頭取は『いいね、すぐにやろう』と後押ししてくれました。『何か新しいことは考えた?』『まだ1週間なのでできていません』みたいなこともありましたけどね」と、柴田氏は笑う。 議論を重ねる中で 、さまざまなアイデアが生まれた。例えば、顧客が家を買うとする。通常、銀行が関わるのは住宅ローンを組むところからだが、家を買う前からさまざまな提案ができたとしたらどうだろう。従来の金融商品中心の営業スタイルから、顧客の本来の目的により近い川上のアプローチへと移行していくことで、新たな顧客体験の形が見えてくる。 ● アプリ振込は手数料が安いのに…… 「日本一速いアプリ」を作ったら収益向上した こうして本格化していったCX向上の取り組み。具体的な成果の一つが、日本一速いアプリを目指した「ちばぎんアプリ」だ。口座登録数が100万件を突破するなど、目に見える成果を上げている。リリース当初は「機能が少ない」など厳しい指摘もあったというが、改善を重ね、App Storeでの評価は、4.5~4.6と高評価を維持している。 現在は、振込の4割近くがアプリ経由だという。実は、アプリ経由の振込手数料は窓口やATMよりも低く設定されており、銀行にとっては減収要因になりかねない。しかし蓋を開けてみれば、振込の取扱量が飛躍的に伸び、収益向上につながった。顧客からも「速くて便利」という声が上がっているという。 柴田さんは、「2021年のスタートから、あっという間の3年間でした」と振り返る。もしかして、文化祭の前のようなワクワク感があったりしたのだろうか。 「いや、焦燥感しかありませんよ(笑)。私たちはKGIとして利益目標を掲げているので、それをどうやって達成するのかも考えなければならない。しかも、営業活動を通してだけでなく、『面白いから使ってみよう』と思ってもらうことで利益を上げていく。難題でしょう」(柴田さん)