「銀行にニーズなんてあるか?」千葉銀行が気付いた“客が本当に望んでいたもの”とは
● CXの沼にハマり、 2年間は暗中模索していた 軌道に乗りつつある千葉銀行のDXだが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。千葉銀行 執行役員 デジタル戦略部長の柴田秀樹さんは、「2021年から2年間は暗中模索していた」と明かす。原因は、CXの追求にあった。 2021年4月にスタートしたデジタル改革部(現デジタル戦略部)は、「ファンになってもらえる銀行になる」を基本路線に、顧客体験の向上を目指した戦略策定に着手した。だが、「それまでは漠然と、お客さまに良い体験を提供することが顧客体験の向上だと考えていたのですが、具体的に何をすればいいのか、明確なビジョンが持てない状況が続いたのです」(柴田さん) コンサルタントの提案も、当時はいまいち腑に落ちなかった。洗練された資料で理屈としては良さそうなのだが、肝心の顧客の実情や心情とマッチしているのか確信が持てなかったという。顧客が銀行に求めているものは何か、「千葉銀行のファンになる」とは一体どういう状態なのか……議論を重ねるほどに混迷を極め、柴田さんらはいつしか、「CXの沼」にはまっていた。 DX部門のジレンマにも陥っていた。DXとは単なるIT化ではなく、ビジネスモデルの変革を指す。そのため当初から「新しいビジネスを始めよう」という方向性は定まっていた。しかし、そこにDXらしい柔軟性や軽やかさはなく、既存のビジネス同等に、しっかりと価値を提供しなければならないと考えていた。 「結局、最初の1年は結論が出ないまま終わってしまいました。資料も数え切れないほど作り倒し、いろんな人に説明しましたが、浮わついた感じで、誰の心にも刺さっていませんでした」(柴田さん) ● 「銀行にニーズなんてないわ」と気付き 「『面白い』を目指そう」と方針が固まる 2年目、ブレイクスルーは突然訪れた。「銀行に対してニーズなんてあるか? ないわ」と気づいたのだ。「銀行ってむしろ行くのすら面倒くさいですよね。長く使っていただくには、『千葉銀行って、なんか面白いよね』と思ってもらえることのほうが重要なのではないかと」(柴田さん) 「面白い」とは、決して奇をてらうことではない。まずは既存の機能を研ぎ澄まし、より便利で使い勝手のいい銀行を目指すこと。結果、長く使い続けてもらえるようになり、その状態が、「千葉銀行のファンになっていただけた」と言えるのではないかと思い至ったのだ。 非金融事業に進出する根本的な理由も、「面白い」の追求にある。「銀行の本業は、お客さまからの信頼を基盤とした金融サービスの提供ですが、一見すると銀行らしくない事業にも果敢に挑戦することで、『千葉銀行ってこんなこともしているんだ。じゃあ、千葉銀行でいいか』と思ってほしい。それが狙いなんです」(柴田さん) 「千葉銀行“で”いいよね」を目指す、慎ましいCX戦略だが、本質を突いているように思う。「ファンになる」のは、顧客の「いいね」が積み重なった先にもたらされる結果に過ぎない。最初から「ファンになってほしい」「好感を持ってほしい」から始めると、CX戦略もどこかあざとくなってしまうのではないか。それはきっと顧客にも見透かされる。