いま、シカゴで起きている「221年に1度の奇跡」
「Aのセミは13年に1度、Bのセミは17年に1度の頻度で羽化し、大量発生します。ABのセミが次に大量発生するのは何年後でしょうか。」 どこかで出て来そうな問題ですが、今、シカゴ近隣で現実に起きている現象です。 13年セミ、17年セミと呼ばれる特異的な性質を持つセミが今年は同時に羽化しています。 アメリカ中西部及びその南の地域16州が発生エリアと言われており、その数1兆匹! 両方のセミの生息地域が重なるのは一部の地域だけですが、我が家近郊は17年セミの発生地のようです。芝生の上、木の下、裏庭の遊具、ガレージの壁、どこにでも大量のセミの抜け殻と、そこから這い出したばかりのセミを見つけることができます。 通常よく見かけるセミは地中で成虫になるまで4ー6年かかると言われていますが、今年発生しているのは13年と17年の長きにわたり地中で生活していたセミ。気が遠くなりますね。あまりにも長く地中にいすぎて、地上に出ようと思ったらビルが建てられて出られない、なんてことも起こりそうです。 13年と17年に1度大量発生する理由は種の生存のための進化の結果と言われています。長い周期に1度だけ起こる大量発生だからこそ、種が効率的に維持できるのだとか。生物の進化で獲得された緻密なプログラミングには驚かされます。 ちなみに13も17も素数なので、素数セミと呼ばれています。なんだか知的な響きをもつセミですね。 前回の大量発生は221年前の1803年で、時の大統領はトーマス・ジェファーソンだったそうな。現代人がこの素数セミの同時大量発生に遭遇することはもうないので、畏敬の念を持つように、とは米国の昆虫学者談です。 実際のセミ発生状況 1990年の素数セミの大量発生時にはシカゴ住民は雪かき用スコップでセミの死骸の掃除をした、との記録が残っているそうです。17年前の大量発生に遭遇した人から「高速道路を走っていたらフロントガラスにセミがバンバンぶつかってきて怖かった」という話は以前から聞いていたので、同時発生はどうなってしまうのか、興味津々でした。 結果、、、すごい沢山セミがいるけれど、スコップは必要ないかな。というのが6月現在の我が家近隣の状況です。 アメリカ中西部でも場所によって大きな違いがあるようで、地面がセミで覆われている、プールにセミが浮いていて泳げない、といった報告も地域によっては聞かれます。鳴き声はそこそこうるさいですが、屋内にいれば許容範囲です。 セミの見た目 素数セミは、鮮やかなオレンジ色が効いた羽に真っ赤な目が印象的な風貌です。 体長は非常に小ぶりで2cm程度です。地中から出てきて芝生にしがみついていることが多々あるので、気を付けないと踏みつけてしまいそうです。セミが羽化している姿は羽が透明でとてもきれいです。幼い頃にセミの羽化を早朝に見て以来、特別な瞬間だと思っていましたが、さすがに今年はお腹いっぱいです。 セミは人気のない昆虫 以前、子供たちと街路樹で羽化するセミを真剣に観察していたら、お散歩中の米国人女性に何を見ているのかと聞かれ、「セミが羽化していて綺麗ですよ」と言ったことがあります。彼女の反応はというと非常に嫌そうな顔をして「いーう」←(本当に気持ち悪いという時によく発する言葉)と叫んでいました。また、娘が学校の庭でセミを手に持って観察していたところ、クラスの男の子に「Are you crazy?」と言われていました。 アメリカ人は一般的にセミが嫌いな人が多いのでしょうか。 それでも祝う ちなみになんでもお祝いにしてしまうのもアメリカ人。Cicada Celebration (Cicada=セミ)と銘打って、赤い目をしたセミのクッキーを焼いたり、手作りのセミのコスチュームを身にまとい木に登ったり、セミ風のカップケーキを作ったりする画像がSNSでは散見されます。なんだかんだ言って楽しんでいます。 私はちゃんと畏敬の念を持って、この221年に1度の奇跡を満喫したいと思います。
河合良子