国立教育政策研究所が教育データ利活用の推進に向け、国の施策と事例を紹介
戸田市はラーニングアナリティクスのツールを導入へ
シンポジウムの第2部では、自治体や学校における教育データ利活用の実践事例が報告された。データ活用に熱心な埼玉県戸田市の教育委員会からは、教育長の戸ヶ﨑勤氏が登壇。これまでの取り組みと成果を披露した。例えば、「戸田市リーディングスキル育成プラン」で実施するテスト(RST)と埼玉県学調の結果を分析すると、学力とRSTの値には明確な正の相関があった。小学校で学力が高くてもRSTの値が低い子供は、中学に入ってからつまずくことがあることがデータ分析で分かったという。「データに基づいて今後の学習課題が予測されることで、早期の対応が可能になる」(戸ヶ﨑氏)。 戸田市は、児童・生徒一人ひとりの学習状況や支援ニーズなどの情報を集約し、学校や教育委員会が効率的に活用できるようにする「教育総合データベース」の整備に取り組んでいる。データの集約により、不登校や学習のつまずきを早期に発見し、適切な支援ができるようにするのが目標だ。 ラーニングアナリティクス(学習分析)システム「LEAF」※の導入に向けた準備も進めている。京都大学 緒方研究室が開発したLEAFは、デジタル教材の配信プラットフォームや学習ログの分析ツールなどから構成され、学習者が教科書・教材上でどのような操作をしたのかを分析できる。具体的な学習活動を分析し、授業改善に役立てたい考えだ。 ※「LEAF」の詳細と導入事例は、当社書籍「学びを変えるラーニングアナリティクス」で詳しく紹介している)
データの裏付けが教員の自信につながる
学校の取り組み事例として、京都市立西京高等学校附属中学校で教頭を務める宮部剛氏がラーニングアナリティクスの実践を紹介した。同校は早くから前述のLEAFを導入し、生徒のさまざまな学習活動を分析して授業改善に生かしている。授業以外の学習活動は教員から見えにくいが、学習ログによって生徒たちの行動が分かる。宮部氏はデータの効用について、「先生が『こうだろうな』と思っていたことをデータで確かめられると自信につながる。後輩の教員を指導する際も、データの裏付けがあることで自信を持って伝えられる」と説明する。 家庭での学習を教員が授業前に分析すれば、理解がどれくらい進んでいるか、どこでつまずいているかといった状況を把握できる。その情報を基に授業の内容を調整して最適化が可能になる。「授業中に実施した小テストの結果から授業の内容を即時に調整することは、経験が浅い先生にとっては難しい。事前の分析が役に立つ」(宮部氏)。また、同校では授業改善のためにAI(人工知能)も活用している。生徒の質問にAIが対応するおかげで教員に余裕が生まれ、支援が必要な生徒に時間を割けるようになったという。
文:江口 悦弘=日経パソコン