自民総裁選「安倍vs.石破」主張を比較 坂東太郎のよく分かる時事用語
●外交政策
安倍氏は肝いりの「地球儀を俯瞰する外交」をさらに展開すると訴えます。具体的には「北朝鮮による拉致・核・ミサイル問題の解決を目指すとともに、ロシア、中国など、近隣外交を積極的に展開し、新時代の北東アジアの平和と繁栄の礎を築く」とし、「日米同盟を基軸に、豪印など価値観を共有する国々と連携し、自由で開かれたインド太平洋戦略を推進」するといいます。 「外交の安倍」は自身も自信を持っているようで、「出馬表明後配付資料」の所信にも「地球儀を俯瞰しながら延べ140か国以上を訪問し、各国首脳と深い信頼を構築してきました。平和安全法制が成立し、日米同盟は今、かつてなく強固となっています。来年は、トランプ大統領、プーチン大統領、習近平主席らを迎え、我が国が初めて、G20サミットの議長国を務めます。今、日本は、世界の国々から信頼、尊敬を集め、世界のど真ん中で大きな存在感を取り戻しました」と言い切ります。 石破氏は「国際情勢の変化に対応した外交・安全保障の確立」と当たり障りがありません。「自由・民主主義・人権・法の支配に立脚した国際秩序の維持」「国際社会のルールメーカーとして国際規範形成をリード」というのも具体策とは言い難い。といって「おかしい」かというとそうでもなく、民主国家のリーダーとして当然の価値観を有すると表明しているとも読めます。
●憲法改正
安倍氏の主張はこれまでと変わりません。「憲法を改正し、新しい時代を切り拓く」と明言。「自衛隊の明記、教育無償化など先の衆院選で公約した4項目につき、次の国会に自民党としての憲法改正案を提出できるよう、党を挙げて取り組み、早期の発議を目指す」とハッキリ示しています。 意外なのは石破氏。「時代の変化に対応した憲法の改正は、他党との丁寧な議論を積み重ねながら、国民の理解を得つつ真正面から向き合う」とプロセス重視を大切にしています。暗に安倍首相の手法は強引に陥る危険性があるともいいたげです。もちろん憲法ですから「他党との丁寧な議論を積み重ね」るのは大切。 とはいえ、石破氏は安倍氏の「自衛隊の明記」、すなわち9条に3項を新設するというアイデアに対して、2012年に自民党が作成した憲法改正草案に基づく9条2項削除・変更を唱えていたはずです。マスコミなどには持論を撤回したわけではないと述べているのに、なぜ「石破プラン」に明記されていないのでしょうか。 自民党国会議員のかなりは護憲とまではいいませんが、9条改正に関しては慎重派も少なくありません。党員・党友レベルだと「改憲より経済だ」が主流。しかも石破案はこと9条改正に関しては安倍案より過激と受け止められがちです。そのあたりの配慮なのかもしれません。 10日の記者会見で、「2020年の新憲法施行」という自身の発言について、安倍氏は「指示ではない」として目標であると強調。石破氏は「参議院の合区」解消(4項目の1つ)と「緊急事態条項」の創設を緊急度が高いとして先行させる考えをにじませ上で過去に安倍氏とは2項の削除・変更で一致していたのがなぜ変わったのか説明を求めました。
-------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など