大人になった息子と母親の適切な距離感とは?
母親の影響力
劇作家のワジディ・ムアワッドは、独自の方法で母親というテーマを取り上げている。ムアワッドは昨年秋『Mère(原題)』(Actes Sud刊)を出版。2021年パリのコリーヌ劇場で初演されたこの戯曲で、彼は母を主人公にし、母の目線を通して彼の人生を変えたレバノン内戦中の亡命生活を回想する。「母は架け橋だ。母との対話がなければ、その橋を渡ることはできない。もし対話がなければ、我々は親の岸に留まったまま。しかし対話の後、初めて橋を渡り、向こう岸の友達や愛、そして残りの人生と出会うのだ。死後、母は対話のきっかけとなった」。当時19歳だった彼は、母の死後、二度と泣かなくなったという。 ジャーナリストのクロード・アスコロビッチと、彼がインタビュー中「エブリン」としか呼ばなかった彼の母とを結びつけたのは別の戦争だった。彼の母親は4歳の時、オランダからドイツのベルゲン・ベルゼン強制収容所に強制送還された。 60歳のジャーナリストのアスコロビッチは、母の人生について交わした会話や書簡をまとめた著書『Se souvenir ensemble(原題)』(Grasset刊)を出版。その中で、母親について理解できたと認めている。母が第二次世界大戦の最後の証人のひとりとして、あらゆる場所で悲劇を語るのを見て、何年もイライラしていたというアスコロビッチは、いまでは「過去への探求が彼女の強さの一部」だと認めている。 ふたりは記憶の欠落部分を埋め、特定の真実を再構築し、ある意味でそれぞれの存在を再配置したのだ。「親はどんな存在なのか? それは、小さな子どもたちに、自分の子ども時代の話をする人たちのこと。それまで母親と息子はそれをシェアしたことはなかった。あるいはあまりきちんと話しをしたことがなかった。こちらから『母さん、もっと話をして』と問いかけるまでは......。私たちが一緒に生活してきた中で、平和な年は1度しかなかった」と彼は綴っている。 しかし、この著書を出版したからといって、彼らのコミュニケーションが根本的に変わることはない。「私はいまでも、性やプライベートなことについては母に話すことはない」と、ジャーナリストは述べている。次の小説のテーマとなっている肉体疲労や年下のパートナーとの関係における年齢差の不安についても、彼が母親に語ることはない。