「ジャズバンドのような組織」 TDK・齋藤昇社長 日本人以外9割、人の多様性生かす
TDKは5月、長期ビジョン「TDK Transformation」と2024年度からの「新中期経営計画(3カ年)」を発表した。齋藤昇社長に最近の事業動向や長期ビジョン達成への取り組みなどを聞いた。 【関連写真】売上高2.5兆円を目指す新中期経営計画を発表した ―長期ビジョンに込めた思いは。 齋藤社長 気候変動も含め、想定外のさまざまなことが起き、先が見通せない時代となっている。だからこそ、できることに注力する。自力を上げることに力を注ぎ、マーケットが改善してきた際にしっかりと価値を提供できるようにしたい。 市場はDX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)、サステナビリティートランスフォーメーションなどにより変わり続ける。そうした社会全体の変化に貢献するため、われわれもトランスフォームし続けないといけない。 ―新中計の戦略の一つに「フェライトツリーの進化(未財務資本の強化)」を掲げています。 齋藤社長 新中計では「財務的価値」と「未財務価値」を強化する。以前は「非財務価値」という言葉を使っていたが、非財務資本を未来の財務的価値向上につながるものと捉え、未財務価値とした。 未財務価値の中で最も重要なのは「人」。エンゲージメントにしても、やる気のあるチームメンバーが増えれば、組織のパフォーマンスを向上できる。 未財務価値を表すものとして、「フェライトツリー」を前面に出した。これまで公表していたフェライトツリーは、当社のコアテクノロジーの発展とプロセス技術の高度化で木が成長する様を表し、それにより事業ポートフォリオ変換を繰り返す姿を表現していたが、今回は木に加えて「根」を強調した「未来のフェライトツリー」とした。このツリーを進化させるための根が未財務価値だ。 ―未財務価値の内容は。 齋藤社長 構成要素は①人的資本②技術力③顧客基盤④組織力⑤それを支える企業文化。人的資本では「多様性」が当社の最大の特徴。グループ全従業員約10万人の約9割を日本人以外が占める。そして10万人の約8割はM&A(合併・買収)でTDKグループ入りしたメンバーであり、そうした企業の長所を生かしていく。 私は、「One TDK」という言葉は決して使わない。目指すのは、「TDK United」だ。「統合はしないが融合する」が方針。多様性のある組織の長所を伸ばしながら緩やかに束ねていくことで、価値を最大限に高め、トランスフォームしていく。一方、ガバナンスのポリシーは明確で、「権限移譲」と「透明性の確保」のバランスを取りながらガバナンスを推進する。 音楽に例えれば、当社はオーケストラではなく、ジャズバンドのような組織。ジャズバンドに指揮者はいない。私自身はバンドのリードマネジャーとして、メンバーのコーディネートを行うのが役割と考えている。 TDKの企業カルチャーは「ベンチャースピリット」。リスクをとって新しいことにチャレンジする。事業規模が拡大しても、このスピリットは育まれており、M&Aで加入したメンバーにも共有されている。 もう一つは「機能対等」。役職はあるが、メンバーの役目は対等で上下はない。正しいと思ったことはどんどん発言して正しいことを行う。このカルチャーも浸透している。 ―AI(人工知能)市場の成長に対し、どのように取り組みますか。 齋藤社長 AIは中長期的な注目分野。具体的には、一つ目はバッテリー事業。データ量増大でバッテリーへの負荷が高まるため、より高性能なバッテリーを提供していく。二つ目は受動部品。AIチップの高性能化で消費電力が課題となるが、これは受動部品にはチャンス。消費電力のロスを抑え、ノイズを抑制できる受動部品がAIチップの近くに搭載、あるいは組み込まれる。こうしたニーズにコア技術の薄膜部品で応える。三つ目はセンサー。DXの浸透はセンシングの増大につながる。 エッジ領域のAIを搭載したセンサーフュージョンに対応するための新会社「TDK SensEI」をシンガポールに設立した。電力問題をはじめ、さまざまな課題へのソリューションを提供し、センサー事業のバリューアップを図る。 HDD関連ビジネスも、生成AIの広がりで想定より回復が早まっている。AI機能搭載スマートフォンなどの登場も当社にはポジティブ。シリコン負極使用のエネルギー密度の高いバッテリーで、AIアプリケーションの成長に貢献したい。
電波新聞社 報道本部