富士通、社員の仲介で400人採用 進化する「ネオ縁故」の一石二鳥
キャリア採用(中途採用)が増える中、新たなカタチの縁故採用が広がっている。社員が求職中の知人や友人を会社に紹介する「リファラル採用」がその代表例だ。進化した「ネオ縁故」は働き手と企業のミスマッチ解消にも役立つと期待される。 【関連画像】大和合金では銅合金の鋳造や冷却などの工程で熟練した技術を持つ社員が働く 特殊な銅合金を製造する大和合金(埼玉県三芳町)は、昔ながらの「大家族経営」を掲げる。社員数は約160人。オープンな雰囲気や団結を重視し、社員を解雇したことはない。採用方法も特殊で、求人媒体に広告を出さず、人材紹介会社やハローワークも使わない。 新入社員はもっぱら既存社員の知人や親族、近隣の工業高校や大学の先生から紹介された卒業生たち。社内には親子や兄弟、夫婦など15組以上の家族社員がおり、社員の孫も入社した。 3代目社長の萩野源次郎氏は「安心する環境であれば人は全力で働ける。仕事に満足していれば、自然に周りの人にも(入社を)勧めるようになる」と話す。働き手の会社に対する愛着心や信頼を重視するエンゲージメント経営に通じる発想だ。 業者などを介さないのは、求職者が条件や給料だけで入社を判断した場合、会社と合わないことが多いと考えているからだ。「採用コストは実質ゼロ」(萩野氏)。それでも新卒・中途合わせて年5~10人を安定的に採用してきた。 リファラル採用では自社を理解している社員が友人・知人を紹介するため、入社する側も事前に得られる情報が多い。ミスマッチを防ぎ、定着率を上げる採用手法として近年注目されている。 大和合金はそんなリファラル採用を長年実践してきたわけだ。信頼できる人を社員が紹介する仕組みのため、特段の事情がない限りは採用する。「専門性より、素直さや助け合いの姿勢を重視する」と萩野氏。誕生会や社員旅行を積極的に催すなど、社内の一体感醸成に余念がない。 とはいえ、ただの仲良し組織では成長できない。家族主義を継承しながら、萩野氏の代では海外進出や新規事業の開拓を進めてきた。新しい挑戦を任せられる人材を育てるため、技術顧問や研究者を招いて勉強会を定期開催する。希望する社員は大学や大学院にも通わせ、授業料は会社が負担する。 ●昭和の「コネ採用」とは違う 成果は出ている。これまでの自動車や半導体向けに加え、ドイツ製の航空機部品にも銅合金の採用が広がった。2021年には欧州の研究機関から核融合施設向けの材料を受注。23年は売上高が過去最高を更新した。こうして稼いだ収益をさらに人への投資に回すことで好循環を生んでいる。 大和合金のやり方は中小企業だからこそ成り立つことも多く、事業規模や採用人数が合わない企業も多いだろう。だが、自社にマッチする人材探しにリファラル採用を導入する企業は増えている。 リファラル採用向けアプリを手掛けるTalentX(東京・新宿)の鈴木貴史最高経営責任者(CEO)によると、サービスを始めた15年当時、国内でリファラル採用を導入している企業の割合はわずか1割。それが今や6割に上がった。リクルーターが自社の求人をSNSで手軽にシェアできる同社のアプリは採用企業が急増している。