富士通、社員の仲介で400人採用 進化する「ネオ縁故」の一石二鳥
鈴木氏が説くのは、「リファラル採用3.0」という概念だ。昭和の時代のコネや縁故採用の「1.0」に始まり、社員にインセンティブ(奨励金)を支払うことで紹介を促す「2.0」までは旧来型だ。 同社調査によると、紹介する社員の動機の大半は「転職を考える友人の力になりたい」で、金銭的な動機はわずか。インセンティブの金額が高いほど、紹介される人の質が下がるという調査結果もあるという。お金に目を奪われ、マッチしない人を紹介する社員が現れては意味がない。 令和の時代に目指すべき「3.0」では、社員が自発的に紹介したくなる仕組みが確立され、リファラル採用の本来の利点を発揮できる。その利点とは、人柄や能力が企業にマッチするという人材の質の高さと、採用コストの抑制だ。 転職エージェントなど仲介会社を使う場合、企業が払う手数料は採用した人の年収の約30%が相場だ。年収が500万円なら150万円。平均的なインセンティブとされる10万円を紹介した社員に支払っても、リファラル採用のコストは10分の1以下で済む。 一般に日本の大企業では中途採用者の7~8割は転職エージェント経由とされる。リファラル採用を導入する企業は増えているが、実際にそのルートで採用される働き手は大企業でもまだ1割ほどだ。 鈴木氏によると米大手テック企業はこの割合が5割と高く、社員が日常的に仲間集めを意識する風土があって組織の活性化につながっているという。同氏は「外部に依存する採用は持続可能性に乏しい。求める人材像の発信や社員を巻き込む力など戦略的なマーケティング能力が求められる」と話す。 ●富士通は採用数の2割目標 リファラル採用は一朝一夕では浸透しにくく、地道な取り組みを積み上げることが不可欠だ。 日本の大企業で先駆者とされるのが富士通だ。試験導入やインセンティブ額の検討など慎重な準備を経て、18年4月に導入した。転職市場に出ていない高度なIT(情報技術)人材の獲得に向け、約3万人いる社員の人脈を活用する。 重視したのは経営層や管理職からの呼びかけだ。社内報やメールなどでトップらが重要性を説き、機運を上げることに注力した。年2回実施するキャンペーンでは、特定の求人でインセンティブを3倍にするなど、試行錯誤を重ねる。 同社はデジタルトランスフォーメーション(DX)企業への転身を目指し、組織文化の変革に取り組んできた。会社への帰属意識が高く、組織に良いイメージを持つ社員が増えたことも、リクルーターの増加につながった。導入6年目に入り、リファラル採用で入社した人材は累計で約400人に達した。 23年度は採用担当者が各職場の定例会議に足を運び、きめ細かく説明して回った。リファラル経由での採用者は140人に急増し、年度中の中途採用に占める割合は14%まで上がった。 人材採用センターの福谷郁子マネージャーは「紹介された人は(他の経路に比べて)内定受諾率が高く、入社後の定着率も高い」と話す。組織の課題を自分事と捉え、リクルーターとして活動する社員はそれでもまだ一部だ。さらに協力者を増やし、24年度はリファラル比率を2割にするのが目標だ。 次回はネオ縁故の続編。退職者を再雇用する「アルムナイ(卒業生)採用」を取り上げる。退職者を悪者扱いしているようでは中途採用の新たなチャネルを閉ざしてしまうことになる。 =記事中の部署名・肩書などは取材時点
薬 文江