サウナ用スキンケアはなぜ必要?倒産寸前、再起をかけて挑んだ新事業
サウナ用スキンケアブランドとして2023年に誕生した「saunality(サウナリティ)」。第一弾商品となる保湿乳液は、日本の優れた商品・サービスを世界に広めることを目的とした「OMOTENASHI Selection(おもてなしセレクション)」を2年連続で受賞。2024年夏には新たに8種のスキンケア商品を発売し、ラインナップを充実させた。 【写真】2024年に発売した新商品のパッケージ 国内の温浴施設でも取り扱いが増え、勢いを見せるも、開発・販売を手がける株式会社ソルテラスはかつて倒産の危機に瀕したこともあったという。ブランド誕生のストーリーや商品の特徴について、代表取締役CEOの宗政信傑さんに話を聞いた。 ■スーパー銭湯の開業を目指すも倒産寸前に 株式会社ソルテラスは、2020年にCEOの宗政さんとCOOの松浦隼人さんが共同で設立した。当時、宗政さんは勤めていたコンサル会社から独立するも、思うように仕事を受注できず、松浦さんのサロンでセラピストとしても働いていたが、そのサロンもコロナ禍で閉店することになった。再起を図って新たに設立したのが同社だった。 サウナや温泉が好きなふたりは「将来、スーパー銭湯を開こう」と意気投合。実現するためのステップとして、まずはリラクゼーションサロン、次にフィットネスジムをオープンした。 「温浴施設を開くには、ノウハウも資金も必要です。そこで温浴施設の構成要素を分解することにしました。銭湯には、マッサージを受けられるリラクゼーションルームがありますよね。フィットネスジムにはシャワールームやロッカールームがあります。だからサロンとジムで施設を維持するためのノウハウを勉強しながら、会社を成長させようと思いました」 10年以内にスーパー銭湯を開く――。そんな目標を掲げて事業を急速に拡大したが、設備やシステム、労働環境など次々と問題が起きた。結果的にフィットネスジム1店舗を残し、ほかは閉店することになった。 ■競争が激しい化粧品業界に参入 同社のテーマは「美と健康」。大学時代に抗がん剤を専攻し、薬学の知識がある宗政さんと、理学療法・生理学が専門の松浦さんは、それぞれの知識を活かしてスキンケア事業を始めることにした。 不安もあったが、会社は倒産寸前。フィットネスジムが開店から1カ月経たずに閉店した経験もあった。「これ以上の修羅場はもうないのでは」「全力を出せば、きっとうまくいく」と考えて不安を拭った。 「化粧品業界は競争が激しいレッドオーシャン。化粧水ひとつ取っても、敏感肌用や、さっぱり・しっとりなど、思いつく限り全部ありました。うちのような小さな会社が、どのような立ち位置で参入するのか。それを見つけることに苦労しました」 当時は「サウナ用スキンケア」という市場は存在していなかったという。宗政さんはマーケティング調査のために、温浴施設に通っていた。サウナの扉の前の浴槽につかりながら、サウナを利用する人の表情や会話を観察し、「どういう商品があれば喜ばれるだろうか」と考えた。そのとき、サウナを利用する人は、肌がキレイな人が多いことに気がついた。 「調べてみると、毛穴の汚れが落ちたり、血行が促進されたりして肌がキレイになるという情報がありました。実際に美容目的でサウナに通う人もいます。しかしサウナのような高温の環境では、肌の汚れに加えて、皮脂などの潤い成分まで落ちてしまう。適切なケアをしなければ肌荒れにつながります。私自身も、サウナに通っているうちに肌がカピカピに乾燥したことがありました。当時使っていたのは、銭湯やドラッグストアで販売されている化粧品。調べてみると、油性成分で肌にフタをするだけのクリームや、成分のほとんどが水という化粧水が多かったんです」 サウナブームが盛り上がりを見せていたこともあり、水分や皮脂が失われたサウナ後の肌に特化した化粧品を必要としている人は多いと考えた。そこで開発したのが、角質層への浸透技術「saunalityテクノロジー」だ。油性成分で「潤った感」を出すのではなく、水溶性成分をベースにすることで、有効成分を効果的に浸透させられるという。サラサラとした使い心地。だが「さっぱりタイプ」のスキンケアは、すでに多くの商品があった。そこで「サウナ用」と使用シーンで提案することで、新しい市場にアプローチした。 ■ラインナップ増でさまざまな肌悩みに応える 最初に発売した保湿乳液「saunality 薬用ミルクローション」は「サラサラしてベトつかない」という声があった一方で、「潤っている感じがしない」という声もあった。だが「2週間使えば変わるはず」と宗政さん。塗った瞬間の感覚よりも、肌を内側からケアすることにこだわった。 「乳液を発売後、保湿以外にもいろいろな機能性がほしいという要望があって、肌質や悩みは人によって違うことに気がつきました。ひとつのアイテムですべての方の願いはかなえられない。そこで商品のラインナップを増やすことにしました」 約1年かけて化粧水2種、乳液1種、育毛剤1種、クリーム4種の全8種を開発。「シワ改善」「ニキビ予防」など、肌悩みによって組み合わせを自由にカスタマイズできる。最初に発売したボディミルクと合わせて9種すべてが医薬部外品。サウナ後はもちろん、毎日の入浴後に使用するのもおすすめという。 現在はECサイトのほか、成田空港内の「Little Japan by OMOTENASHI Selection」、クランピング施設やスーパー銭湯といった温浴施設でも販売している。 ■サウナの本場フィンランドへの進出も視野に サウナブームと言われて久しいが「今後サウナブームという言葉は消えても、サウナ人口は大幅に減ることはないのでは」と宗政さん。「日本では銭湯や温泉などが、文化として昔から根付いています。サウナブームという言葉がなくなっても、温浴施設に通う人口は維持されるのではないでしょうか」 成田空港内の店舗では、外国人観光客からの評判もよいという。今後はサウナの本場フィンランドへの進出も考えている。 「『おもてなしセレクション』を受賞した際に、スウェーデンやデンマークの選定員の方から『北欧ではサウナ後に、サウナハニーなどを塗ることが多い』と聞きました。サウナの本場でも、油性成分で肌にフタをしてしまうスキンケア商品が多いと知り、チャンスがあるのではないかと思いました。日本全国の温浴施設でお取り扱いいただけるように頑張りながら、それと同時進行で海外にも進出したいと思っています」