40代から意識改革を!大きな病気を未然に防ぐ「予防医療」という新発想に着目
元気な人を応援し、併走する。新しい医療のカタチ
予防に時間やお金をかけなかった日本でも、ヘルスケアの意識は確実に高まっている。伊藤先生が特任教授を務める慶應義塾大学予防医療センターは予約が困難なほどの人気で、2023年には麻布台ヒルズに拡張移転した。そこではドクターは受診者とどう関わるのか。 「早期発見、早期治療は大原則ですが、今までの医療と違うのは、同じドクターが会員の人、一人を経年的に同じ視点で診ていくこと。これにより、わずかな異変も見つけやすくなる。病気を治すのではなく、元気な人を応援し併走するサポーターのような関係性。蓄積したデータと検査結果を見て、いい感じですね、また1年がんばりましょう! と背中を押すような。ただそれを実現するにはマンパワーが圧倒的に足りないので、将来的には医師や看護師だけでなく、医学的知識がありデータを読み取れる職種がもっと増えてほしいと思います」。 持病がある高齢者が、医師に怒られないように健康管理する現状と比べ、なんとも明るい。 「手軽なアプリやデバイスが普及し、ヘルスケアの意識が一般に浸透すれば、フレイルや認知症が減り、財政を圧迫する高齢者の医療費問題にも希望が見えてくるはずです」
健康長寿の鍵を握る、腸内細菌にフォーカス
「健康な体は健康な胃腸に宿る。便秘の人は疾病リスクが上がるという報告もあります」。 腸内細菌と健康の関係を伊藤先生が説明。 「善悪で語られる腸内細菌ですが、それよりも数と種類が多いことが大切。腸内細菌が体のいろいろな臓器に影響を及ぼすのは、腸内細菌が作り出した代謝物が腸のバリアを超えて血液に入って全身を巡り、また腸の周りの神経に作用しホルモンのように働き、刺激が脳をはじめ、さまざまな臓器に伝わるから。100歳以上の人の代謝物に、ある種の胆汁酸が多いことはヒントになりそうです。 もう一つ、善玉菌が作る代謝物、短鎖脂肪酸も重要。短鎖脂肪酸は、体内に取り込まれると脂肪細胞や神経に働きかけて、エネルギー代謝を高めてメタボになりにくい体質を育てたり、免疫力を高めたりする働きが」。 ではそれらを増やす方法は? 「腸内細菌は、母親から譲り受け、食生活の影響が大きい。腸内細菌の餌になる食物繊維を多くの種類でたっぷり摂ることを意識して。食生活を変えると1週間程度で腸内細菌が変化するという報告も」。 心、脳、代謝、免疫にもアプローチする腸内細菌。腸内を整えるケアは、効率のいい予防医療になりそうだ。
From Harper's BAZAAR May 2024 Issue