緑茶市場の停滞、“ゴクゴク飲める”に振り切りすぎた? お茶の価値を再定義する試金石となるか…『新・伊右衛門』の覚悟
■「緑茶にしかできない価値とは?」難産の末、史上最高レベルの濃さを実現
そんな反省もあり、2023年『伊右衛門』は大幅なリニューアルに踏み切ることに。”ゴクゴク飲める”清涼飲料としての価値を一旦横に置き、「緑茶にしかできない価値とは何か?」という原点に立ち返った。これはかなり大きな転換点だったという。 「清涼飲料としての価値は水や麦茶に任せておけばいい。僕らは緑茶にしかできない、緑茶でしか味わえない価値をもう1回考えようと。極端に言えば、今僕らが飲んでいただきたい、本当に美味しい緑茶の味を追求してみようと思ったんです。社内でもいろんな議論がありました。”ゴクゴク飲める”飲料が求められる中、それとは大きく違う方向に行こうとしたので、経営陣からは『理屈は分かるが、行く方向がそっちでいいのか? そこに答えはあるのか?』と言われました。経営陣だけでなく、開発に取り組む僕らも100%の確信はなかったです。本当にこれがお客様に受け入れられるのか? といった不安を抱えつつも、前に進もうとしていました」 20年の長きに渡ってタッグを組む福寿園にも「もう1回美味しいお茶を作りましょう」と呼びかけた。互いに議論を繰り返した結果、福寿園の売れ筋商品である「深むし茶 京の緑茶」を一つのモデルとして、新しい伊右衛門を作ることに。 「開発にかけた約6ヵ月間は、とても密度の濃い時間でした。僕ら開発チームがプレゼンして、ダメ出しが出たら緊急ミーティング。翌日にまた別の中身とデザインを出す……そんなスピード感でした。もう何百作ったか分からないくらい、試作を繰り返しました。難産でしたが、今の中身ができた時に僕らはいけると思いましたし、経営陣も飲んで『なるほど。君たちが言っていたのはこれなんだね』と言ってくれました」 こうして完成した新・伊右衛門は、茶葉量1.5倍、旨み抹茶3倍、カテキン約2倍、コク約3倍で、同商品史上最高レベルの濃さを実現。ユーザー調査の結果も良好で、三宅さんら開発チームはかなりの手応えを感じている。 「今回の伊右衛門の味は他と明らかに違っていること、かつ『美味しい』と思っていただけること、この二つを調査結果としてきちんと出すことが一番の課題でしたが、最終調査でその結果を得られて『いける』と思いました」 三宅さんが言うように、新しい『伊右衛門』は一口飲んだ時に味の濃さ、旨味、深みなどをしっかり感じられる商品に仕上がっている。いわゆる”ゴクゴク飲める”タイプというよりは、じっくり味わって飲むタイプの緑茶と言えるだろう。 「”1本飲み調査”として、飲み始めと飲み終わりの評価を見たところ、飲み終わりの評価がすごく高かったんです。ぬるくなってもお茶の味がしっかり感じられ、最後まで美味しく飲めると感じていただけた。なので、”ゴクゴク飲める”感覚は落ちたとしても、それはそれでよいと思いました」