「背高モデル」全盛時代に一石 新型アルトは軽の世界を変えるか?
“ドケチマインド”でコストダウンも実現
あとはもう落ち穂拾いの様な地道な努力の積み重ねだ。そこはスズキのお家芸。エンジン一つとっても、排気マニフォールドをシリンダーヘッドと一体化したり、触媒ケースを簡素化したり、シートの構造を見直したり、ヘッドランプの面積を減らしてユニット重量を削ったり。 面白いのは軽量化が大抵コストダウンになっていることだ。高い素材を使って、あるいは構造を複雑にして軽量化するようなことはほぼない。上に数え上げた軽量化だって「ああ、一体化すれば軽くなって、部品点数が減って、壊れにくくなって、組み立てコストも下がるよな」とちょっと苦笑いするようなアイディアだらけなのだ。エンジニアリングの世界ではこれを「ロバスト性」と呼ぶ。 スズキは「ドケチ」で有名だが、その「ドケチ」は糾弾するような意味合いではない。「よくぞまぁそこまで」とみんなが笑顔で言うのである。世界の製造業が必死に学ぶロバスト性をスズキが“ドケチマインド”で軽々達成しているのを見ると痛快である。 エンジンは圧縮比のアップとEGRで効率向上を図っている。トランスミッションは、CVTと5段マニュアルに加えて、いわゆるロボット変速のミッションも選べるようになった。これは普通のマニュアルミッションを油圧アクチュエーターで操作し、簡易的な自動変速機に仕立てたもので、ショックなどの変速マナーには若干不利だが、構造が単純で部品が安く、途上国でも修理が可能な上、効率が良い。しかもこのユニットはどうもフェラーリのF-1マチックと同じマニェッティ製じゃないかという噂もあって、ホントなら面白い。そういう諸々を含めて、ガソリン車No.1の低燃費、リッター37.0キロを叩きだしている。
運動性能に特化した追加モデルも
という具合に新型アルトは色々と軽の世界を変えてくれそうな予感に満ちている。リリースを読んでいて「ほう。なるほど」と嬉しくなる珍しいクルマである。とまとめようと思っていたら、続報が飛びこんできた。 先ほど「車高が低ければ重心も低く運動性能が高められる」と書いたのだが、まさにその運動性能に特化したモデルが追加されそうだ。現時点では来年1月9日から始まる東京オートサロンに参考出品されるコンセプトカー扱いだが、写真を見る限り現実味がある。このアルト・ターボRSコンセプトは、レカロ製のシートに加え、17インチアルミと専用チューニングサスペンションを装備するとのこと。 これまでのアルト・クラスは、スペーシア・クラスに対して価格の安さ以外に大した武器を持っていなかったが、軽く、燃費がよく、デザイン・インパクトがあって、かつこういう高性能モデルのフラッグシップがあるとなれば話は別だ。明らかに売れそうな匂いがしている。もしかしたらこの新型アルトで軽自動車の世界が大きく変わるかもしれない。 (池田直渡・モータージャーナル)