「AI面接官」にどこまで任せる?就活戦線に進出◆拒否感示す学生も…人にしかできない役割とは【時事ドットコム取材班】#令和に働く
◇「チャンス広がる」「正確か分からない」
記者の学生時代はAIと面接することなど想像もできなかったが、今の学生はどう感じているのだろう。26年卒向けの就職説明会に足を運び、声を聞いた。 金融志望の女子学生は「応募者が多い企業は学歴で選別すると聞いている。AIで効率化して全員が面接を受けられるなら、学生にとってもチャンスが広がるのではないか」と歓迎する。「面接官との相性で不採用になるなら、AIが一律の基準で判断した方が公平だと思う」と話す男子学生もいた。 一方で、観光業界志望の女子学生は「学生をデータとして見ているように感じるし、人材を採用する過程に使うのはおかしい。判断も正確か分からない」と拒否感を示す。教育関係志望の男子学生は「人間と違って面接官の反応が見えないので、手応えが分かりにくそう」と不安げだった。効率化や機会拡大にメリットを感じつつも、機械に判断されることの違和感や信頼性に疑問を持つ心情がうかがえた。 ◇採用分野、欧米では規制 実際に海外では採用分野のAI活用を巡り、法規制の動きが強まっている。米アマゾン・ドット・コムでは技術職の採用にAIを導入したところ、学習させた過去10年の応募者のデータがほとんど男性だったため、女性を低く評価するようになり、運用を取りやめた。こうした問題を踏まえ、米国は23年10月、AI開発事業者に安全性評価の報告などを義務付ける大統領令を出した。 欧州連合(EU)では24年5月、世界で初めてAIの開発や使用を規制する法律が成立。健康や安全、人権にリスクを及ぼす可能性のある分野を「高リスク」とし、高品質なデータを学習させることや、人による監視といった厳しい対応を求めている。採用や昇進時の評価をするAIは、キャリアや生活に大きな影響を与える可能性があるとして、「高リスク」と分類された。 日本では、AIの開発や活用に包括的な法規制はされていない。経済産業省と総務省は、事業者向けのガイドラインを策定し、企業の自主的な取り組みに委ねている。ただ、政府の「AI戦略会議」は24年5月、リスクの高い分野については日本でも法規制の検討が必要との結論を出した。7月に新たに設置した「AI制度研究会」が今後、具体的な制度設計を検討する。 ◇人より正しいと言える? AIにどこまで採用を任せてよいのか。AIガバナンスに詳しい中央大国際情報学部の平野晋教授は「AIは一定のルールに基づいた選別は得意だが、全体の文脈を読んで判断するのは苦手。人間の尊厳の問題を考えても、採用プロセスのすべてを代替することは許されず、人による面接は必要です」と指摘する。 日本における採用分野のAI活用は、労働基準法や男女雇用機会均等法などで禁止する差別に該当せず、人の判断を支援するツールという使い方であれば問題ないとされ、企業が各自の判断で導入している。取材では、「人は偏見があるからAIの方が良いのでは」という意見もあったが、「米アマゾンの例のように、学習するデータによってはAIも差別的な振る舞いをする可能性があり、正しいとは限らない」と平野教授。ほかにも、データを学習し進化していくAIは制御不能となったり、意思決定の過程が複雑で検証ができない「ブラックボックス化」したりする可能性もはらんでいると説明する。 取材した学生からはAI活用に理解を示しつつも、「仕組みや判断の基準は知りたい」という希望も聞かれた。企業にはどのような対応が期待されているのだろう。平野教授は、①信頼性の高いデータを学習させる②AIの予測や決定を過度に信頼する「自動化バイアス」にかからない訓練を受けた人に監視させる③受験者に仕組みを説明し、望まない人には別の選択肢を用意する―などを挙げる。「採用選考は人の一生を左右し、間違った場合は重大な結果につながる。正確で公正という担保がなされた場合のみ、AIを導入するのがあるべき姿でしょう。こうした対応は世界的な価値観として求められている」と語った。 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。