「AI面接官」にどこまで任せる?就活戦線に進出◆拒否感示す学生も…人にしかできない役割とは【時事ドットコム取材班】#令和に働く
「学生時代に苦労や困難を乗り越えた経験はありますか?」―記者にそう質問したのは、人間ではなく、目の前のスマートフォンの画面内にいる「AI面接官」。人の代わりに採用面接を担うAI(人工知能)が登場し、企業での活用が広がっている。どのように使われているのか。評価は信頼できるのか。現状を取材した。(時事ドットコム編集部 川村碧) 【画像】AI面接、結果どう出る? ◇質問は50以上、7つの資質を評価 記者が「AI面接」についてインターネットで検索すると、質問を投げ掛けてくる対話型や、面接動画の表情や話し方を分析して評価する形式などがあり、複数の企業がサービスを提供していることが分かった。その中の一つである対話型AI面接サービス「SHaiN(シャイン)」を体験してみた。 スマホに届いたURLをタップし、音声確認などを済ませると、さっそく面接が始まった。「組織をまとめた経験」や「計画を立てて取り組んだこと」などについて、その時の状況やどう行動したかを質問され、スマホに向かって答えていく。AIは「それは大変でしたね」などと相づちを打つが、声から感情は読み取れない。回答が不十分だと「もっと具体的に教えて」と求められた。50問以上に回答し終えると、1時間ほどたっていた。 サービスを提供するタレントアンドアセスメント(東京都港区)は、過去の経験に関する「状況」「課題」「行動」「結果」を尋ね、受験者の資質を客観的に評価する手法を開発。SHaiNに搭載されたAIは、その手法を用いて専門の評価スタッフが採点した、性別などの個人情報が含まれない約4万件のデータを学習しており、受験者の回答を分析することで「バイタリティ」「計画力」といった7項目の資質を1.0~10.0で評価する。受験後約15分で、評価リポートや面接動画、回答全文が企業に提供される仕組みだ。 2024年6月末時点で585社が導入している。同社の山崎俊明社長は「面接日程や会場の調整も不要で、学生は24時間どこでも面接を受けられるのがメリット。選考の初期段階で導入している企業が多い」と説明する。 ◇採用現場、どう活用? 採用現場の実情を知ろうと、SHaiNを活用している光応用製品メーカー「ウシオ電機」(東京都千代田区)に取材を申し込んだ。地方の志望者が多い同社は、移動の負担軽減などを理由に20年卒の採用から2次選考として導入。2次選考の対象は400~600人で、以前は人事担当だけでは面接官が足りず、他部署から人員を集めていたという。人事担当の沢田泰宏さんは「応募者が多いと1人当たりの面接時間が限られるし、面接官の評価にばらつきが出る問題があった。AIはどの学生にも同じように質問し、確実に経験談を引き出せるのが利点」と説明する。 AIの評価リポートはすぐに人事担当者に届くが、まずはAIの評価を見ずに、文字起こしされた回答や面接の音声・動画データを確認し、合否を決定。その後、AIの評価を参考として確認しているという。「先入観を持たないようにこの順番にしています。人間の評価と差が出る場合があり、AIの採点結果に影響されると、欲しい人材を落としてしまう」と沢田さん。人が最終的な合否を決めることは事前に学生に説明している。AI面接を受けて入社した女性社員は、「人と比べ緊張しなかった。回答内容について担当者からコメントがあり『ちゃんと見てくれている』と感じた」と振り返った。 3次選考以降は対人面接を実施しており、AIへの置き換えは考えていない。生のコミュニケーションを通じて学生側が「この企業で働きたい」と思ってくれるケースもあるといい、沢田さんは「最終的な相性は人でなければ見極められないと思います」と語った。