北海道清水町が推進する「まちまるごとホテル」、町長が率先して自宅の部屋を提供する民泊に泊まって、その可能性を探ってみた
北海道十勝の清水町は、民泊エアビーアンドビー(Airbnb)を活用して、町の活性化を進めている。2022年6月に両者は包括連携協定を結んだ。人と人をつなぎ、関係・交流人口を増やし、将来的には「まちまるごとホテル」を実現することで、地域経済を活性化させようという構想だ。 清水町の阿部一男町長を筆頭に、商工観光課の課長も副業として自宅をエアビーに掲載するなど全国でも先進的な取り組みを始めている。人口9000人弱の町がエアビーで目指す姿を取材した。
清水町がエアビーと組んだ背景
十勝平野に広がる清水町は、農業が基幹産業。十勝最大の牛乳の生産量も合わせて、農業生産額は年間およそ300億円にのぼり、農産物を生かした食品加工産業も町の経済を支えている。 観光では、観光ガーデン「十勝千年の森」、十勝平野が見渡せる「日勝峠」、素朴な農村風景が広がる「美蔓パノラマパーク」などがあるが、阿部町長は「観光は全体の産業からみれば、ごく一部」と話す。清水町によると、コロナ前2019年度の観光入込客数は約17万人。北海道十勝総合振興局のデータでは、十勝管内全体では約1026万人となっていることから、観光客数についても「ごく一部」という状況だ。 清水町は、「国道238号」と「国道274号」の2本の国道が交差し、道東自動車道の「十勝清水インターチェンジ」もあるが、それゆえに通過型の町にとどまっていたという。 「通過するだけで、悔しい思いをしていた」と阿部町長。なんとか、ランチだけでも町内で食べてもらえないものかと考えていたという。通過型から休憩型へ。観光客に数時間でも滞在してもらえれば、消費の機会が増える。 そのなかで、十勝清水インターチェンジが道東観光のゲートウェイとして認知が高まるにつれて、たとえば日勝峠のドライブインなどで賑わいが出てきたという。それに合わせて、清水町御影の「とんかつのみしな」、牛トロ丼の「ごはん屋ゆめあとむ」、ラーメン屋「寳龍 」など人気の飲食店が現れ始め、道内外から人が集まるようになってきた。 エアビーとの連携は、次の段階、人を町に留めるための施策として考えられたものだ。休憩型から滞在型へ。阿部町長は「交通の便がいいため、観光客は帯広に泊まってしまう。その人たちを何とか引き留めるための方法はないかと考えていた」と明かす。町内には宿泊施設も少なく、高齢化で廃業する宿泊施設も出ていた。 「何か惹きつけるような新しいことが必要」(阿部町長)と考えていたとき、商工観光課とエアビーとが繋がっていたことから、連携の話が進んだという。「エアビーは、民泊の中では世界一の企業で発信力も強い。宿泊資源もないなかで、とにかく泊めなければいけないと思っていたため、エアビーのビジネスはとても説得力があった」と振り返る。 エアビーは全国で自治体との連携を進めているが、清水町が特徴的な点は、町長自らが自宅をエアビーのリスティングとして掲載しているところだ。阿部町長は「他にそういうことをやっている自治体はないと聞いたので、それならなおさら旗振り役としてやろう」と思い、夫人を説得したという。 また、商工観光課の前田真課長も全国で初めて副業として自宅を掲載した。さらに、清水町が運営する移住体験住宅2棟も掲載。自治体が先頭に立ってホストを務めている。開始当初は10軒ほどで始めたが、約1年で16軒にまで増え、2023年度は24~25軒の掲載を目標に掲げる。今年、収容可能人数も合計50人を超える見込みだという。「まちまるごとホテル」構想は着々と進んでいる。 「最終的な目標は、商店街の再生と活性化」と前田課長。旅行者が町内でエアビーに宿泊し、暮らすように商店街で食事や買い物をすることで、活気が戻ることに期待をかける。阿部町長も「町並みが賑やかになってはじめて、町全体が元気になる」と話す。