突然の破産「船井電機」に起こっていた異変…調査会社が倒産の「Xデー」に目撃した驚きの現場
こうしたなか、今年9月末~10月初めにかけて、船井電機の資金繰りに関して、具体的なレピュテーション(噂、風評)が多数寄せられるようになる。TSRデータベースには、「少なくとも直近2カ月の支払いについて、取引先に延期要請をしている」「最近になって支払い猶予を要請する書面を関係先に送付している」などの情報がこの時期に登録されている。 信用調査報告書では、運営母体の変更、担保設定などを基に、船井電機の変調が読み取れたが、登録された「ネガティブ情報」はさらなる資金繰り悪化を告げている。
いわゆる「Xデー」を探る動きが水面下で急を告げていた。そんな折、10月23日夕方、「電話がつながりにくい」との一報を受け、TSRは東京本社を訪ねた。応対した船井電機の関係会社の従業員は、「今日は船井電機の社員の出勤は1人だけだった」と答えた。普段から1人で対応しているのか質問すると、「もっと出勤している」という。 船井電機に近しい情報筋は、「過去に支えていた先の多くも手を引いている。支援の見込みもない。グループ向けを含め、すでに債権の精査を完了しており、(船井電機の与信は)過去の案件だ」と耳打ちした。Xデーはそこまできていた。
運命の10月24日。TSRは、現地を取材する大阪、情報を集約する東京(筆者は東京担当)で、朝から臨戦態勢を敷いた。 船井電機クラスの規模になると、対応できる弁護士事務所は限られる。さらに今回は、権利関係が複雑に絡み合っている。登記上本社は大阪だが、こうしたケースでは東京地裁の扱いが多い。そこで、「倒産村」(倒産や事業再生を手掛ける実務家の総称)の弁護士の直近の担当案件などを洗い出した。あれこれ弁護士事務所の受任状況を探るなか、有力事務所が候補に浮上した。
その後まもなく、その事務所が担当するとの情報がTSRにもたらされた。事務所の主な弁護士のスケジュールを確認すると、明日(25日)は会合が控えていることが判明した。 ■従業員が一同に集められていた さらに正午過ぎ、大阪本社に張り付いたTSRの情報部員が映した写真が送られてきた。拡大すると上層階の一角に多くの従業員が集まった姿が写されていた。企業倒産の現場を多く目の当たりすると、何が起きているかおおよそ想像できる。破産の当日に従業員は一同に集められ、代理人弁護士から破産の事実と雇用関係の解消などを告げられる。送られてきた写真は、ひと目で「Xデーは今日」と確信させた。