ドイツ極右の勝利と「1票の重さ」【特派員コラム】
先月11日、旧東ドイツ地域を席巻しているドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の街頭演説を取材するために、州議会選挙を控えたブランデンブルク州のある小都市を訪れた。AfDの政治家たちの演説を聞くために300人あまりが集まったオラニエンブルクの広場の向かい側には、AfDの政権入りに反対する市民らが「極右反対集会」を開いていた。両者を挟む2車線の道路に配置された警察官数十人は、物々しい目つきで左右を見回していた。ずっと曇っていた空からやがて激しい夕立が降り注ぎ、その後に広がった虹だけが、意味もなく街頭演説と極右反対集会の現場をつなげていた。 9月に入り立て続けに実施されたドイツの州議会選挙の結果は、AfDがいつの間にか主流政治勢力の一部になった現実を示した。9月1日のチューリンゲン州選挙では、第2次世界大戦後初めて同党が得票率1位となり、ザクセン地域では得票率30.6%でキリスト教民主同盟(CDU)と1ポイント差の2位を記録した。オラフ・ショルツ首相が所属する社会民主党(SPD)の長きにわたる票田だったブランデンブルク州の選挙でも、同党は得票率29.2%で2位に浮上した。 街頭演説の現場で出会ったAfDの支持者たちは、今回の選挙結果をどのように評価するのか気になった。極右政党の支持者は、ナチス式敬礼をしたり暴力的なイメージで定型化されやすい。しかし、現場で出会った人々は、「私は極右でもナチスでもない」と抗弁し、既成政治に対する失望を表出した。特に、日常で感じる社会的な問題を増え続ける移民に結びつけ、政策の失敗だと批判したりもした。 ジーンさん(24)は「学校や職場で私たちは多くの問題を抱えている。働く労働者も十分ではない。政府は多くの税金を取っていくが、これを難民に使っている。ドイツには変化が必要だ」として、「(同党に対する)批判はあるだろうが、支持者全体をナチスと呼ぶことには同意できない」と述べた。50代のマスニさんの考えも似ていた。「私は一家の長であるだけで、ナチスではない」として、「私たちは非常に多くの亡命申請者を受け入れた反面、子どもたちは現在の学校で十分な教育も受けられずにいる」と主張した。 AfDはこのような不満に食い込み、既成政治や移民に対する嫌悪感を強化し、自分たちを「唯一の」の代案勢力として打ち出した。好奇心から演説会場に来たという10代のマルク・ナツさん(16)は「この党の政治家たちは人々が聞きたがることを話す。何が問題なのかは繰り返し話すが、かといって、解決策を提示するわけではない」と寸評した。それでも、ジーンさんは「AfDを約30%が支持している。これを無視してはならない。無視すればするほど、さらに多くの人たちがこの党を支持するだろう」と語った。 大多数のドイツメディアは、極右の勝利の要因について各種の分析を出しながらも、同党の政権入りの可能性には距離をおくという結論を出した。「極右阻止」を選挙戦略とした政党は、進歩・保守を問わず、同党を排除したうえで連立政権の構成について議論している。しかし、同党に支持を示した有権者の気持ちを変え、より良く効果的な代案があることを示しているかについては疑問だ。民意の支持を失っている現在の政治勢力と、移民やムスリムなどの特定集団にすべての問題を転嫁する極右との間に立つドイツ市民が持つ1票の重さを、改めて考えさせられる。 チャン・イェジ|ベルリン特派員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )