山中で1週間「薄皮あんぱんで食いつないだ」 遭難者の生死を分けた“選択”とは プロに聞く「捜索現場のリアル」
上空と地上からの捜索
翌朝、雨も上がり、梅雨の晴れ間となった。 私は朝から久我社長やWさんのご家族と連絡を取りつつ、日光へ向かった。 東京の自宅から日光の現地までは車でおよそ3時間半。 この日は天候が回復したため、ココヘリ受信機を搭載したヘリコプターによる捜索も準備しているとのことだった。地上捜索隊は昨日と同様、Wさんがたどったルートを群馬県側から日光の登山口へ向けて下りていくことにした。 隊員たちの車は群馬県側に置いておくので、日光側にたどり着いた後、彼らを群馬県側に送り届ける必要がある。そのため、私は下山側の日光に向かったのだ。 日光市足尾町にある登山口手前の駐車場でWさんの奥さん、娘さんと待ち合わせをした。娘さんはすでに成人していたが、家族仲も非常に良いのだろう、という印象を受けた。 この段階で、遭難から2日後。私は今日のヘリコプターか地上隊の捜索で、生存しているWさんの位置が特定されるだろうと考えていた。なにせ、地上隊はWさん自身が歩いているルートをたどっている。空中か地上かはともかく、ココヘリの受信機がWさんの発信機の電波に反応するはずだ。 栃木県と群馬県の境にあるこの山域は、携帯電話の電波が不安定で、山中にいる地上捜索隊とほとんど連絡を取ることができなかった。無線が通じるようになったのは、午後になってからである。Wさんの発信機からの反応はなしとの報告だった。 その時ちょうど、私たちの頭上にココヘリの受信機を搭載したヘリコプターが飛来した。 Wさんのご家族は、ヘリコプターの動きを見守っていた。晴れはしたが天候が不安定だったため、ヘリコプターでの捜索は限られた時間の中での活動となった。 上空からであれば、Wさんの発信機からの反応を捉えることができる。Wさんのご家族、地上捜索隊、その場にいた誰もがそう思っていた。 しかし、ヘリコプター捜索でも、Wさんのシグナルを捉えることはできなかった。 遭難者がココヘリ発信機を携行していた場合、ヘリコプターから捜索をかければ、ほぼ間違いなく、遭難者の位置を特定することが可能なはずだ。 それなのに、Wさんのシグナルを捉えられないのはなぜだろう。 考えられる原因はいくつかあった。 まずは、何かの理由で発信機が故障してしまった場合。沢などに落として水没してしまっているといった可能性もある。 もしくは、充電切れや、電源が入っていない場合。 過去にはそもそも家に発信機を置いてきてしまっていたというケースもあったが、Wさんの自宅に発信機は残されていなかった。今回はなんらかの原因で発信機の電源が入っていない状態になっているか、水没の可能性が高いと考えた。