山中で1週間「薄皮あんぱんで食いつないだ」 遭難者の生死を分けた“選択”とは プロに聞く「捜索現場のリアル」
ただ、日光側から車で登山道まで行くには、市が管理する林道の通行許可を取得する必要があった。この日は土曜日。林道通行許可を申請し行政から許可をもらうのは難しい。また、日光側から鋸山山頂へ登るには一般的なコースでも3時間ほどかかる。 一方、群馬県沼田市栗原川林道は、通行許可を取らずに皇海山登山口まで車で行くことが可能だった(現在は通行不可)。また、登山口から皇海山の稜線までは2時間弱だ。そのため捜索隊は群馬県側から捜索に入った。 私はWさんの奥さんと電話で連絡をとり、自己紹介をしたうえで、捜索の流れを説明し、Wさん自身が山岳保険に入っているかどうか、など基本的な確認をした。遭難発生直後だったし、ココヘリの電波が受信できればWさんの位置は特定されると考えていた。
どうして電波をキャッチできないのか?
予想に反して、この日Wさんのココヘリ発信機の電波を受信することはできなかった。 地上からの捜索だったからだろうか。翌日には天候も回復する見込みだ。ヘリを飛ばして上空から受信機を使えば、すぐに見つけることができるはず……。 捜索隊員たちはずぶ濡れで、登山口にあたる皇海橋駐車場に戻り、翌日の捜索準備と野営の準備を始めた。 そこである違和感を山崎さんが持ったという。 「あれ? まだ下山してないのかな?」 出発前には数台の車が駐車場に停まっていたが、隊員たちは日没と同時くらいに下山したため、一般登山者の姿もなく車はもうない……と思いきや、1台の車が残されていることに気づいたのだ。その車はレンタカーで、車内には調理するためのガスボンベなど、登山用品がいくつか残されていた。 隊員たちがいる群馬県の栗原川林道から入山するのは、皇海山のみの日帰り登山を目的とする場合がほとんどだ。それなのに、こんな時間まで車が停まっているというのはおかしい。違和感を覚えながら、この日、地上捜索隊の2人は登山口にテントを張り、一日の活動を終えた。