「戦闘機界のシビック」F-16が選ばれなくなってきた根本理由
F-16Vはタイでもフラれた
タイ空軍は1980年代後半から2000年代前半にかけて、エジプトと同じF-16A/Bと、その改良型F-16AM/BMを導入しています。このうちF-16A/Bは老朽化が進んでおり、タイ空軍は2022年1月から後継機の選定作業に着手していました。 タイ空軍は当初、F-16A/Bの後継機としてF-35A戦闘機の導入を希望していました。しかしアメリカはF-35の輸出に必要な条件をタイが充たしていなかったことを理由に、これを拒否。代わりにF-16Vを提案しました。 しかしタイ空軍はF-16Vを採用せず、2024年8月にスウェーデンが提案したサーブ「グリペン」の最新モデル「グリぺンE/F」を採用すると発表しました。 タイ空軍の選択は、F-35Aの輸出を拒否したアメリカに対する反感という面も多少はあるのでしょうか。ただ同空軍は、JAS39(グリペンの機種番号)E/Fの前モデルであるJAS39C/Dや、早期警戒機S-100「アーガス」などのサーブ製軍用機を運用していますので、運用実績の積み重ねによるサーブ社製軍用機への信頼や慣れも、グリペンE/Fに有利に働いたのかもしれません。
見積りみて「驚愕!!」が目に浮かぶ
エジプトとタイがF-16Vを選ばなかった理由は複合的なものですが、高すぎる価格も、F-16Vに不利に働いたのではないかと筆者(竹内 修:軍ジャーナリスト)は思います。 エジプトとタイがF-16A/Bを導入した当時、F-16は1機1500万ドル程度で購入できる、比較的安価な戦闘機でした。 しかしF-16Vは高性能なレーダーや電子機器などを搭載した結果、価格が上昇しており、エジプトがF-16Vの導入交渉を進めていたころの1機あたりの価格は、6000万ドルを超えていたとの報道もあります。 F-16Vの価格上昇は、物価や為替レートの変動なども考慮する必要がありますし、F-16V自体の能力も向上していますので、F-16A/Bの価格と比較すること自体、ナンセンスなのは確かですが……長年乗りなれたフォルクスワーゲンやホンダ「シビック」などの大衆車の買い替えに、同じ名前の新型車の見積りをもらったら、高級車並みの価格になっていて購入に二の足を踏んだ――エジプトとタイもそうした状況に出くわしたのではないでしょうか。
竹内 修(軍事ジャーナリスト)