2000ケース超を知る達人が教える「認知症」悪化を防ぐため絶対に不足させてはいけない「3つのもの」
「安全地帯」の「安心座布団」に座らせて、不安を和らげる
認知症の人は周囲の状況をうまくつかめなくなって不安を感じています。ある女性が、認知症のお母さんを病院に連れていこうと、車イスに乗せました。「さあ、病院に行きますからね」と伝えたところ、しばらくの間は何ともなかったのですが、横断歩道にさしかかったところでお母さんが突然、「ギャーッ、人殺し! 助けてください」と叫び出したという出来事がありました。 おそらく本人は、誰かわからない人に、わけのわからない場所に連れて行かれるような感じがして、殺されるのではないかというくらい、強く不安になったのでしょう。認知症の人の気持ちとはこのようなものです。介護者がかかわるにあたっては、不安であることを理解したうえで、その気持ちを少しでも和らげることができるようにするのが大切です。そのためにはどうすればよいでしょうか。 それには、自宅や仕事場の机など誰にでもほっとできる場所があるように、認知症の人にもそのような安心できる場所、いわば「安全地帯」を介護者が用意してあげればよいのです。ちょうど車がビュンビュン行き交う道路の真ん中に、絶対に大丈夫な場所が設けられている、あのイメージです。 もっとも、認知症の人を安全地帯に案内するだけではまだ不足です。“納得”してそこにいていただかなくてはなりません。そのためには、「ここにいていいんだ」「ここは自分の居場所だ」と、認知症の人に安心してもらう必要があります。認知症の人に「安心座布団」に座っていただくのです。座布団にスッと腰が落ち着くあの感じを、認知症の人に得てもらうのがベストです。引き算はそのための有効な手段だと言えます。
認知症の人と接するときに必要な「三原則」を把握しておこう
引き算のときだけでなく、認知症の人と接するとき全般で介護者が心得ておかなければならないことは、そう多くはありません。必要なのは、おどかさない・追いつめない・おびえないという、この三原則だけです。 ちょっと忘れものをしただけで、「それは認知症じゃないか」「病院に行ったら?」とお年寄りに言う家族がいます。心配しているつもりかもしれませんが、あまり言い過ぎても、本人をおどかして不安を煽るばかりで、いいことはありません。それどころか、かけた言葉がお年寄りを追いつめてしまうことさえあります。 実際の話ですが、78歳のある女性は、事あるごとに周囲から「認知症じゃない?」「病院に行ったら?」などと言われ続けたため、いつもおどおどして過ごしていました。そのうちにうつ状態となり、本当に認知症になってしまったのです。 あるいは、うつ状態は認知症の前兆だったのかもしれませんが、いずれにせよ、おどかすようなことばかり言うのは考えものです。もちろん、まわりの声かけだけが悪かったと言うつもりはありませんが、明らかに認知症の人を追い込むような声かけだけは避けましょう。 認知症というと何となく恐ろしげな感じがすることと思います。また、認知症の人にどのようにかかわってよいかわからない、という戸惑いを感じることもあるでしょう。でも、本人はもっと不安で戸惑っているのです。介護者までおびえてしまっては、状況を悪くするばかり。とにかく介護者が恐れることなく接することが肝心です。 このように、認知症の人―その家族―介護職は、互いに誰かの心理がほかに反映するのです。ちょうど「三面鏡」のように関係が映し出されます。ひとりが離れればほかのふたりも離れ、逆に近づけばみんなで歩み寄ることができるのだということを、よく心得ておきましょう。 後編記事〈無理は禁物、「共倒れ」だけは避けて! あなたにも訪れる認知症介護「施設どき」の見極めかた〉へ続く。
右馬埜 節子