朝ドラ『虎に翼』朝鮮出身者への差別意識が根づいていたワケ 戦後新潟で起きたおぞましい襲撃事件の内容とは?
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』では第18週「七人の子は生すとも女に心許すな?」がスタート。寅子(演:伊藤沙莉)らはある放火事件の裁判を担当することになる。逮捕されたのは、火災があったスマートボール場の経営者である朝鮮出身者である金顕洙(演:許秀哲)だった。朝鮮人差別に「はて?」を連発する寅子だが、史実でもこの時期いくつもの事件が問題になっていた。 ■闇米を巡って警察と衝突した「坂町事件」 作中でも触れられた「坂町事件」の顛末をご紹介しよう。坂町事件とは、昭和21年(1946)9月22日に新潟県岩船郡保内村(現在の村上市)で発生した暴動事件である。背景にあったのは、戦後の深刻な食糧・生活物資の不足だった。 かつて花岡悟(演:岩田剛典)が闇米を拒絶して餓死するという事件が描かれたが、新潟でももちろん闇米の流通が問題になっていた。さらに、新潟北部の新発田市には在日本朝鮮人連盟が事務所を置いており、坂町駅を中心に大量の闇米を関西方面に出荷していた。 この闇米輸送を取り締まろうとした村上警察署の警察官らと朝鮮・中国出身者らが坂町駅構内で対峙し、1日に2回も暴力による衝突が起きた。敗戦直後の日本は独立した朝鮮や戦勝国である中国に対して強く出ることはできず、警察側が消極的な姿勢だとみるや、朝鮮・中国出身者のグループは警察官に殴る、蹴るといった暴行を加え、パトカーを破壊し、その場にいた警部補1名を拉致した。 事態を収めたのはGHQ新潟支部の係官で、「日本在住である以上は、日本の法律を遵守しなければならない」、「闇米の取り締まりを拒否することはすなわち連合国の指令に反する行動である」といったことを言い渡したという。 GHQ公認となったことで12人の朝鮮・中国出身者が逮捕され、新潟軍政部に移送されたが、結局新潟県外への追放処分、そして「以後は闇米の取引をしない」という旨の誓約書を提出しただけで全員が釈放された。 ■事件を報じた新潟日報社襲撃で事態は悪化 新潟日報社や読売新聞は、事件翌日の9月23日の夕刊でこの坂町事件を大々的に報じた。それに端を発して起きたのが、「新潟日報社襲撃事件」である。 9月26日、在日本朝鮮人連盟に所属する人物ら計16人が新潟日報社を訪ねてきた。そして新潟日報社と読売新聞社の両方に対して「坂町事件の報道に誤りがあることを認め、ラジオで誤報だったと声明を出せ」と要求してきたのである。 読売新聞社は9月28日に折れて、謝罪記事を掲載することで片を付けた。一方、新潟日報社の回答は「警察の捜査結果がわかった後に善処する」というものだった。これに激怒した朝鮮出身者のグループは社内で暴れだし、備品の破壊行動に及んだ。 新潟警察署はこの事件で9人を逮捕。その後、「暴力行為等処罰ニ関スル法律」の違反と業務妨害罪で有罪判決がくだされている。 その他、当時の日本では新潟をはじめ全国で朝鮮出身者による襲撃事件が多発しており、社会問題になっていたことは事実である。同時に、それによって本来苦しむ必要のない善良な朝鮮・中国出身者まで肩身が狭く理不尽な思いをすることがあったのも事実なのである。
歴史人編集部