JAXA宇宙戦略基金、「月-地球間通信」の実現性調査でKDDIを採択
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月15日、「宇宙戦略基金」事業で公募している3つの技術開発テーマの実施機関を決定した。 今回決定した技術開発テーマは(1)月-地球間通信システム開発・実証(総務省計上分)、(2)宇宙輸送システムの統合航法装置の開発(経済産業省計上分)、(3)低軌道自律飛行型モジュールシステム技術(文部科学省計上分)――の3つ。 実施機関は(1)では「月-地球間及び月面での大容量通信実現に向けた実現可能性検討」でKDDI、「13.5m地上局を利用した月-地球間通信システム設計の提案」で福井工業大学、(2)では「小型・低コスト・高性能な統合航法装置および地上検証装置の開発」で三菱プレシジョン、(3)では「自律飛行機能等を有する低軌道モジュールの基本システム設計」で日本低軌道社中――となっている。 (1)は、米航空宇宙局(NASA)が主導する月探査計画「Artemis」を踏まえ、月を周回する有人拠点「Gateway」や中継衛星を中継して、月と地球の間で4Kや8Kなどの高画質映像をやり取りできるようになることを踏まえている。大容量データをやり取りするために、月探査向けの地上局を新設することも念頭に置かれている。 (2)の背景にあるのは、衛星などの貨物(ペイロード)を軌道に投入するロケットの運用方法の変化だ。 打ち上げでは、安全な飛行管制が大前提。従来は、ロケットの位置速度の計測、機体の状況監視を地上局の無線通信で担い、遠隔で飛行中断を指令する飛行中断システムと地上のコンピューターによる管制システムを運用して安全を確保してきた。 しかし、位置速度の計測や機体の状況監視、安全に飛行しているかどうかを判断する機能は、ロケットに搭載されたコンピューター(オンボードコンピューター)で担えるようになっている。地上システムの運用維持コストを減らしたり、地上局からの可視性で生じる飛行経路制約を緩和したりするメリットを獲得できるようになっている。米国では、こうした工夫が取られるようになっており、日本でも導入されつつあるという。 こうした背景から(2)では、飛翔しているロケットの位置速度を計測する機能と、自律飛行安全管制の判断に必要な機能を統合させて1ボックスの搭載コンポーネントで実装する統合航法装置を開発し、小型で低コストの機器として、民間小型ロケットを含めて広く利用できることを目指している。 (3)は、現在の国際宇宙ステーション(ISS)が2030年で運用が終了する「ポストISS」を見据えたものだ。ポストISSの地球低軌道(LEO)では、米企業が開発、所有、運用する「民間宇宙ステーション」が主役となる。実際にAxiom Spaceによる「Axiom Station」、Starlab Spaceによる「Starlab」、Blue Originなどによる「Orbital Reef」などの民間宇宙ステーションの研究開発が進んでいる。また、ポストISSのLEOサービス市場は、3兆円の市場規模になると試算されている。 現在ISSで運用している日本実験棟「きぼう」に代わるモジュールを日本企業が開発、運用することが求められるのは合理的な判断と言える。そこで(3)では、日本企業が構築、運用する(ポストISSならぬ)「ポストきぼう」となる低軌道拠点モジュールの基本システムを設計することになる。 ポストきぼうである低軌道拠点モジュールは、海外の民間宇宙ステーションと結合、連携する機能が必須。加えて、滞在する人間から発生する振動をなくすために、民間宇宙ステーションから離脱して実験できるすることも考えている。 今回の低軌道モジュールでユニークなのは、技術流出の観点から海外のモジュールでは実施が難しい技術実証のニーズが想定されることから、きぼうのように連結型モジュールから発展した自律飛行できることも求めている点だ。「フリーフライヤーとしても運用可能な地球低軌道活動拠点を実現することが有効」としている。
田中好伸(編集部)