SF作家の安野たかひろさん・編集者の黒岩里奈さんと語る、Z世代以降の働きかた。システムの問題とどう向き合う?
新作『松岡まどか、起業します』は、スタートアップ版『半沢直樹』?
―安野さんの新作『松岡まどか、起業します──AIスタートアップ戦記』、すごく面白くて一気に読みました。元スポーツ選手の投資家の方が出てきたり、リアリティがありましたが、安野さん自身が見聞きされたことも物語に反映されているんでしょうか? 安野:物語と完全に同じことが起きたというわけではありませんが、実体験をベースに膨らませたり、スタートアップ業界にいる人たちに聞きながら種を集めていきました。 ―スタートアップ業界版の『半沢直樹』のような下克上の物語だなと思いながら読んでいたんですが、ネタバレしない範囲で言うと、勧善懲悪的な『半沢直樹』と終わりかたが少し違うんですよね。そこがすごく良いなと思ったんです。 安野:そうですね。主人公のまどかがどういう選択をするのかと考えていって、最後はそこにたどり着きました。小説を書く前にプロットを考えたりするんですが、じつは最後の5話をどう締めるかということは事前に決めず、直前でこれどうすんねんって思ったところから、松岡まどかだったらこうしていくんじゃないかなと思ってたどり着きました。 黒岩:主人公の松岡まどかの働くモチベーションが半沢直樹と大きく違うなということは感じました。半沢直樹が家族を守るため、あの人に貶められたからやり返してやりたいという動機で話が進む。一方で、松岡まどかも安野自身も未来をつくりたい、社会をこうしたいということが自分のプリミティブな欲求とかなりつながっている。そこが半沢直樹との大きな違いなのかなと感じました。 ―最初の根源が違う感覚はありました。あと印象的だったのが、松岡まどかは新卒世代の女性で、彼女と並走する先輩の水戸部さんも女性です。ハードワークな仕事の話には男性のイメージがどうしてもあって、だからこそ素敵だなとも思ったんですが、メインの登場人物を女性にしたことに何か意図はありましたか? 安野:そうですね。スタートアップ業界にもすごく活躍している女性の起業家の方がいるんですが、たしかにフィクションで女性のビジネスパーソンが活躍している様というのはあまり描かれていないので、そこはぜひチャレンジしてみたいなと思いました。