ナイキの厚底でどん底 奮起のアシックス廣田氏「世界最速のシューズを」
「負けっぱなしで終われるか。」
21年夏の東京五輪のトライアスロンで、男女とも金メダルを獲得した選手がアシックスの厚底シューズ「メタスピード」を履いた選手でした。それで方向性は間違えていなかったと自信を持てました。逆風が続いたマラソンでも、21年頃からアシックスのシューズを履いて大会に出場する選手が増えていったのです。 そこで、22年元旦の全国紙で大学駅伝を念頭に「負けっぱなしで終われるか。」という広告を出しました。本当に履いてくれる選手が増えるか心配でしたが、広告を発案した社員たちの熱意に押されて掲載しました。結果的には新年の大学駅伝への出場選手の着用率が、前年のゼロから11.4%まで回復し、23年には15.2%、24年には24.8%と伸びていったのです。 ●キャンプ設立で本気見せる 既に他社製のシューズを選んでいるトップ選手に、履き替えを説得するのはかなり難しい。そこで、アシックスをあきらめないでいてくれた選手たちから新製品を履いてもらいました。 もちろん、新しい選手の獲得も重要です。ケニアに2つ、欧州と米国に1つずつトレーニングキャンプをつくり、選手との接点を増やしています。ナイキさんは既にキャンプを持っていましたが、我々にはありませんでした。これは長期投資でもありますし、選手たちに対して、「アシックスは本気なんだ」という我々のメッセージでもあります。 その後はよく、欧州では勢いのあるアシックスが戻ってきたと言われるようになりました。6大大会を含む世界の21の大きなマラソン大会でも結果は出ています。これらの大会で3位以内に入ったアシックス着用の選手は、22年の10人から23年には16人、24年には10月末までに23人と着実に増えています。 マラソンなど長距離だけではなく、短距離などトラック競技でもトップ選手への浸透を図っています。22年の陸上の世界選手権(オレゴン)では決勝に進んだ選手が5人でしたが、23年の世界選手権(ブダペスト)では14人に増えました。 鬼塚は頂上作戦で、何でも頂上を目指したのではなく、選んだ分野については勝つことにこだわりました。我々は25年までに、日米欧のランニングシューズ市場でシェア1位になるという目標があり、着実にそこに近づいています。
大西 孝弘