怪文書や失踪事件など“のこされたもの”はなぜ怖い? ファウンド・フッテージが注目される理由【吉田悠軌×梨】
ジャパン・ホラーの現在地 #2
昨今のホラーブームを語る上で、「ファウンド・フッテージ」というモキュメンタリ―形式が注目されている。直訳すると「見つけられたフィルム」で、第三者によって発見された未公開の映像といった意味合いだ。 【画像】ジャパン・ホラーブームの中心的人物、梨氏 「ファウンド・フッテージ」の怖さ、近代小説との関連などについて紐解いた、怪談・オカルト研究家の吉田悠軌氏と、現在『行方不明展』が絶賛会期中の梨氏の対談を、『ジャパン・ホラーの現在地』より一部抜粋、再編集してお届けする。
「ファウンドされるもの」になぜ恐怖を感じるのか
吉田悠軌(以下、吉田) ファウンド・フッテージは、怪文書が代表的なように、誰かの日記や手記といったものを見つけましたという体の物語形式でいくわけですよね。例えば私がぱっと思いつくのは、「トミダノ股割レ」とか「ワラビ採り殺人事件」みたいな実際の未解決事件にまつわる怪文書。 梨 「ミユキカアイソウ」、「オワレている たすけて下さい」ですね。 吉田 他にも失踪事件の「洋子の話は信じるな」とか。あと奥さんと娘を殺しちゃった音楽会社の男が自殺する時、その様子をテープで録音していたものとか。ああいったものの気味悪さだったり怖さだったりを想定しているのかなと思いました。 梨 その部分もあります。未解決事件のウィキとか、あるいは、そういう変な怪文書だったり変な書き込みがありましたとか。2ちゃんの「消えたとてうかぶもの・?」もそうですよね。ああいうコピペが実際に書き込まれているところを掲示板で見ていた原体験はあったので、そこの気味悪さっていうのもあるんですよ。 ファウンド・フッテージとして、あるいは資料を集めてそれを公表しましたっていう体にした場合、「誰を」の部分はある程度自由に設定できます。だから例えば、その人自体にちょっとした怖さがある、その出自に不気味さがあるとか、そういうところで怖さの演出をしたりもしますね。 吉田 その部分においては、怪談的な怖さというよりはヒトコワというか、人の精神の怖さにシフトしているなと感じます。 梨 まさに「怪文書展」はそうでした。 吉田 人智の及ばない世界、霊的なもの、ここではない異界ということではなく、人間の精神のブラックボックスというところですね。精神が狂っていくような怖さというのも、わりと梨さんの作品においては見られますね。もしかしたら霊的な怖さよりも、そっちの方が多いぐらいかな。 梨 確かに『かわいそ笑』だと、そっちが8割ぐらいだった感じもしますね。 吉田 大森時生さんと組んだ『このテープもってないですか?』にしても、言ってみれば人の精神が壊れていくことが感染していく恐怖であって、霊的な恐怖ではないですね。 梨 どちらかというとヒトコワというか不条理系ですね。実際そういう風になってしまった人の、立ち振る舞いの異化効果みたいなところだと思うんですけど。その前に大森さんがやってらっしゃった『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』がヒトコワと、因習的な怖さというところになるので、それとは別のところで梨っぽさを出すとしたらどうすればいいだろうということで考えたのがこのフォーマット、演出方法でしたね。
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