東京流とは違う信州そばの世界 11月まで「まつり」ラッシュ
そば生産で全国有数の長野県は間もなく秋の新そばの時季を迎え、県内各地でそばまつりが繰り広げられます。今はソバ畑にじゅうたんのように広がる白い花が見ごろ。「そば好きとそば通は違う」と言う長野市のそば評論家・金子万平さんの話を交えて信州そばの世界をたどります。
各地でそばの花や地域素材メニュー
長野県は9月から11月にかけて県内各地で「そば」の世界一色に。長野県観光機構がネットに設けた「秋の信州そばまつり情報」に掲載されたまつりの日程は42件に上ります。「こんなにそばまつりがあるのは信州だけ。山形県など他のソバ産地でもここまではない」と金子さん。 標高1100メートルの木曽町の高原で開く「信州木曽開田高原そば祭り」(10月2日)は、昼夜の寒暖差が大きい高原で育ったソバとうまい清水で仕上げた新そばが自慢。テレビドラマ「真田丸」で上田城などのにぎわいが続いている上田市は「真田の里新そばまつり」(10月30日)で真田産のソバ粉の手打ちそばなどを振る舞う予定です。 箕輪町の「信州箕輪 赤そば花まつり」(9月24~25日)は、中央アルプスのふもとに育つ「赤そば」の4.2ヘクタールのピンクのじゅうたんのような花が見もの。松本市の「信州・松本そば祭り」(10月8~10日)は、県内はじめ全国各地の手打ちそばが集結します。 このほか伝説の里・長野市鬼無里(10月1~31日)、ダッタンそばを提供する長和町(10月9日)など、地域の特色や独特の食材を生かしたそばまつりがめじろ押し。
信州の“粉もの文化”
信州人はなぜそば好き? 金子さんは「信州ではそばが食事であり、おやつ扱いだった江戸とは違っていた」。長野県のそば店のそばは量が多いが、「それは食事としてしっかり食べる文化だったから。昔から家に客が来ればたっぷりそばを出してもてなした」。 米が足りないからやむを得ずそばを食べたのではなく「農民は朝は米を、昼もしっかり米を食べて働き、夜はそんなにエネルギーが必要ないからそばにした。私自身の昔の暮らしもそれが普通だった。そんな“粉もの文化”が信州にはあった」。 長野県でも、裕福な旦那衆も含め地域の人々が好んでそばを楽しむ地域ではうまいそばが育ったが、そば料理を軽く見るような風土の地域ではそば文化はそれほど豊かにはならなかった。信州でも場所によりそば文化の濃淡がある――と見ます。 特に現在の上越と軽井沢を結ぶ重要な交通路だった北国街道沿いでは、信州のそば文化が発展して、大切にされたようだ、と。「参勤交代の殿様や多くの同行者、行き交う旅の人も信州の宿に着いてうまいそばを喜んで食べたことが想像できますね。だからこの地域では一層うまいそばが大事にされた」。