別れの言葉はなしか? ダニエル・リカルド、F1ラストレースの裏側。さようならも言えなかった理由とは
別れの時
決勝レースの時刻を迎え、RBのタイヤ戦略が失敗に終わり、後方でバトルを繰り広げることになったリカルドの脳裏には「これが最後だ」という思いがあったのは明らかだ。 だからこそ、リカルドはレース終盤にファステストラップを狙うことを厭わなかったのだろうし、チェッカーを受けた後のパルクフェルメでグローブを外し、コックピットの中でF1ドライバーとして最後の瞬間に浸っていたのだろう。 正式発表がなくても、レッドブル陣営やリカルド側の人間でなかったとしても、何が起きているのかは明らかだった。必要だったのは最終的な確証だった。 リカルドに別れを告げたいと思う人々は、決勝日の夜が最適なタイミングであると分かっていた。マクラーレンのランド・ノリスでさえ、元チームメイトに別れを言うべく深夜のRBガレージを訪れたのを目撃されていた。 リカルドはF1最後の週末をもっと良い形で締めくくることができただろうか? もちろん、できただろう。RBからの離脱が正式発表された時に送られた言葉の数々を見れば、盛大な見送りが行なわれたはずだろう。 リカルドはそれを望んでいたか? 答えはイエス。レッドブルがそれを望んでいただろうか? もちろん、その答えもイエスだ。 後からそう言うのは簡単だが、前もって何が正しいのかを計るのは容易ではない。様々な要因が絡み合っていて、二律背反の状況も生まれる。だからこそ、シンガポールGPでのリカルドのお別れ会は開かれなかったのだ。 もし時間が巻き戻れば、レッドブル陣営とリカルドの両者の状況は変わっていたかもしれない。 しかしF1から離れることが公になった際にリカルド自身がソーシャルメディアで指摘した通り、F1は良いことも悪いことも等しく投げかけてくる。 「常に山あり谷ありだ。でも楽しいし、本当のことを言えば、僕はそれを変えようと思わない。次の冒険まではね」とリカルドは語った。
Jonathan Noble