広告界のガリバー電通の新しい取り組み
循環プラットフォームの実証実験
これぞまさに「B2B2S」の象徴的事例だと言えるのが電通サステナビリティコンサルティング室が取り組んでいる循環プラットフォームだ。今はその実証実験を終え分析をしている段階だが、堀田峰布子部長に話を聞いた。 「これまでは作って売ることが企業のメイン活動だったのですが、今は作って売って回収、再利用までが企業活動の範囲に入ってきました。実際にいろいろな企業や経産省や経団連が取り組もうとしているのですが、私たちはプラス独自の視点として、その循環の輪に継続的に参加してくれる顧客というのが非常に重要なのではないかと考えています。 購入もしてくれるし、回収にも参加してくれる、そんな顧客たちは実は新しい顧客群なのではないかと思うのですね。これまでの継続購入をしてくれる顧客階層をロイヤルカスタマーと呼ぶとすると、さらに回収・リサイクルにも参加してくれる顧客を私たちはサステナブルカスタマーというふうに名づけています。そのサステナブルカスタマーをターゲットとした実証実験を今年の1月末まで約2カ月間行ってきました。 電通グループの電通と電通プロモーションプラス、流通のローソン、メーカーの明治、リサイクルのナカダイホールディングスの5社協働で、生活者が参加する実証実験でした。具体的には、『明治おいしい牛乳』をはじめローソンで取り扱う紙パックの回収場所をローソンさんの都内3店舗に提供いただき、紙パックの回収に協力いただいた生活者に割引クーポンを提供する。ナカダイホールディングスさんには回収物の循環システムネットワークの構築をしていただく。我々電通グループは、その実証実験の企画、設計、検証とシステム開発をやらせていただきました」 現在は、そこでの取得データを分析しているところだという。 「実証実験を行った3店舗はそれぞれ立地条件が異なるところを選んでいまして、回収が多くなされるのは住宅地にある店舗なのかオフィス街なのかといったことも分析しています」(堀田部長) 今後の行方はどうなるのか。 「今後の展望としては、今回紙パックの回収を実施したのですが、今後は例えばプラスチックの回収、例えばポリスチレンとかポリエチレンのようなプラスチックの樹脂別の回収へ展開することも考えています。空ボトル、ガラス瓶なども集められますし、回収品目や回収拠点の拡大も可能です。さらに回収・リサイクルした再生材の活用、顧客へのインセンティブ付与による参加や回収量の増加も目論んでいます。 回収・リサイクルが次の購買につながるという点も重要で、回収に際してクーポンを渡すことで次の購買につながるわけですね」(同) 確かにリサイクルシステムが社会全体で構築されていくことは社会全体の課題と言えるが、そのシステム構築の中で広告会社である電通はどう関わり、どうビジネスにつなげていくのか。 「電通は、この循環するプラットフォームのシステム開発をしている。つまりプラットフォーマーなのですね。今、回収・リサイクルについては、メーカーや流通がそれぞれ取り組んでいますが、個社毎の取り組みのため効率が悪いといったことがあります。そのためこのプラットフォームを活用いただき、明治さんだけでなく他のメーカーさんも関わっていただく。回収場所もローソンさんだけでなく他の流通企業さんもみんな乗ってくださいという形にすると、たくさんの量を集めることができるし、リサイクルに回したときの経済合理性も取れてきます。 サーキュラーエコノミーを回していくために、生活者の意識と行動の変容を促すコミュニケーションをどうとるか、といったところは広告会社の元々のビジネスに近いものです。今まで企業は作って売るだけでした。私たちも売ることを促進する広告というビジネスをしてきたんですけれども、これからは作って売って回収・再利用までがきちんと回せるようなコミュニケーションを社会と生活者にしていく。動脈産業と静脈産業、生活者が参加するモノと情報が循環するプラットフォームを構築することが、今回の実証実験においてキーポイントになっていると思っています」(同) 堀田部長は通信業界などを経て2016年に電通に転職したという経歴だが、サステナビリティコンサルティング室は2023年1月1日に立ち上がった。約30人のメンバーが所属しているという。 「私はサーキュラーエコノミーが専門領域なんですけれども、その他にも、DEIが専門領域とか生物多様性が専門領域だというような人材が、社内のいろんな部署から集まってきてサステナビリティコンサルティング室になっています。 まだ社会にとっても生活者にとっても新しい概念なので試行錯誤ではあるんですけれども、経産省や環境省、経団連も非常に注力をしているし、国や地方自治体もCO2排出を抑えるためにゴミの焼却を少なくしていこうという具体目標があるので今後、サーキュラーエコノミーは、喫緊の課題になってくるのは間違いないと思っています」(同) サステナビリティコンサルティング室は、売り上げ目標を決められた電通内のひとつの部署だ。それに対して電通グループには、社内横断の研究開発グループ、プロジェクトがたくさん存在する。次に取り上げるAI MIRAIは2017年1月にスタートしたプロジェクトだ。