博報堂DYグループ全体で進められるAIの研究開発
グル―プ横断の研究開発チームとして携わっているメンバーは約80人にのぼるという。博報堂DYグループのAIプロジェクトへの取り組みとは…(編集部)
AIの研究開発を進めるグループ横断のチーム
「電・博」という呼称でわかるように、電通グループと博報堂DYグループは広告界の二大勢力だ。「博報堂」「大広」「読売広告社」の経営統合により博報堂DYグループが発足したのは2003年のことで、それ以降、協同でプロジェクトに取り組む事例は少なくなかった。 そして今、AI技術を活用した研究開発を推進するCreative technology lab beat(クリエイティブ・テクノロジー・ラボ・ビート。以下 beat)というチームがアイレップや博報堂DYメディアパートナーズなどを含むグループ横断の組織として活動を拡大している。また2022年4月に博報堂DYホールディングスの100%子会社として博報堂テクノロジーズというグループの共通基盤となるテクノロジー専門会社が設立され、beatのメンバーはそこに所属しているケースが多いという。 その取り組みについて、博報堂DYホールディングス 統合マーケティングプラットフォーム推進局長の木下陽介氏に話を聞いた。木下さんはbeatのプロジェクトリーダーだ。 「AIとかテクノロジーって効率化に価値が置かれがちなんですけれど、私たちは、新しい価値を提供できるようなプロダクトサービス、それを使うことで心が動いたり躍るような、そういったクリエイティブ業務を支援するサービスの研究開発というのをビジョンに掲げてbeatという名前で活動しています。 博報堂DYグループ全体としては博報堂、大広、読広、そのほかデジタルの運用をやっているDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)やアイレップ、ソウルドアウト、制作領域でのプロダクションである博報堂プロダクツ、博報堂アイ・スタジオなど多くの会社があるのですが、そうしたグル―プ横断の研究開発チームとしてAIプロジェクトに携わっているメンバーは約80人にのぼります」 以前からAIの研究開発は行われていたが、本格化したのは3年前という。その背景を木下さんはこう説明した。 「今まで総合広告会社はテレビ広告やマスメディア中心にやっていたのですが、やはりデジタル系メディアや広告運用が伸びていますし、クライアント側のニーズも増えています。その領域のDX化や自動化を積極的に進め、機械に任せられる部分は機械に任せる。そして、人間がやるべきクリエイティビティが高い部分に私たちは関わっていく。そのための研究開発を進めています。具体的な領域としてはパフォーマンスクリエイティブ領域とブランデッド領域、先端クリエイティブ領域という3領域で、サービス開発と業務支援、働き方改革のようなことを考えている状況です」 その3領域の中で木下さんは主にブランデッド領域、先端クリエイティブ領域に関わっており、そこでの生成AIの活用についてこう説明する。 「よくAIが進化するとクリエイターがいらなくなるとか、そういう話がありがちなんですが、私たちは決してそうはならないと思っています。AIが得意なところはAIに任せますが、最終的にプラニングとか制作というクリエイターならではの領域については、AIはあくまでそれを支援するパートナーなんですね。 そういうコンセプトに基づいて作ったプロダクトの一つが、デジタルクリエイティブプラットフォームの『PINGPONG』です。ここではクリエイターがAIを自分の手足のように使える環境づくりとか、AIの活用に必要なクリエイターの発想力や選定力のスキルアップ、あるいはクリエイティブ制作工程のDX化によるスピード・量産性のアップといったことに取り組んでいます。 クリエイティブの制作のプロセスというのは、一例を言えば、クライアントから依頼があって、その目標を達成するためのターゲットを決め、そこに刺さるクリエイティブの制作物を作って納品する、というプロセスをたどっていきます。例えばその過程で、広告コピーや、リスティング広告などを生成AIで作っていくH-AI SEARCHといったソリューションがあります。またそこからできあがったクリエイティブに関して、画像やテキストの効果を予測していくH-AI IMAGESというものもあります。これを使ってプレビューのワークプロセスをWEBブラウザ上で確認したり、Slackなどのビジネスコミュニケーションツールと連携しながら、業務プロセスを一括管理できるようになっているのが、『PINGPONG』の全体像です」 そのAIを活用した開発には、どのくらいの人が関わっているのだろうか。 「グループ内の各事業会社に開発に携わっているチームがあるんですが、私が所属する統合マーケティングプラットフォーム推進局が、博報堂テクノロジーズと連携しながら開発をしています。 開発テーマだけ見ても20を超えるプロジェクトがあり、毎週定例で会議を行ったり、メンバー同士でいろいろと連携をしながら取り組んでいます」(木下さん)