メドベージェフ「ウクライナに核移転ならNATOに核攻撃されたとみなす」
<アメリカがウクライナに核兵器を供与する可能性の議論に、プーチンの盟友が敏感に反応。ウクライナへの核兵器供与は核戦争の準備とみなすと脅し文句を並べた>
アメリカとロシアの緊張が高まる中、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の盟友が、テレグラムへの投稿でアメリカに対し、核兵器に関する警告を発した。 【動画】プーチンの新型ミサイル発表映像は病気を隠すために加工されていた? 「異変」は過去にもあった ニューヨーク・タイムズは先週、複数の匿名の西側当局者がバイデン米大統領はウクライナに核兵器を提供する可能性があると話したと報道。ロシア前大統領のドミトリー・メドベージェフ安全保障会議副議長は11月26日、この議論を批判した。 核移転に関する報道とメドベージェフのコメントに関して本誌がホワイトハウスに問い合わせたところ、「ウクライナに核兵器を提供する計画はない」との回答があった。 メドベージェフはテレグラムへの投稿で、「アメリカの政治家やジャーナリストは、ウクライナに核兵器を移転した場合の影響を真剣に議論している」と書いている。 「最大の核保有国ロシアと戦争状態にある国に核兵器を与えるのか? その考えはあまりにバカげており、そんな動きを勧める人間は妄想性精神病を疑われてしかるべきだ」 「しかし、私はバカげた話にもコメントしなければならない。1)ウクライナに核兵器を移転するという脅しそのものが、ロシアとの核戦争の準備と見なすことができる。2)現実に核兵器が移転された場合、核抑止力の国家政策指針(核ドクトリン)第19条に基づくわが国に対する攻撃行為と同一視できる。結果は明らかだ」 撃墜不可能、被害は受け入れ難いものに メドベージェフが言及した核抑止力の国家政策指針とは、2020年に定められた核兵器を使用するための条件を示すドクトリンで、その第19条には「ロシア連邦による核兵器使用の可能性を規定する条件」として、「ロシア連邦および/またはその同盟国の領土を攻撃する弾道ミサイルの発射に関する信頼できるデータの到着」が含まれている。 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は最近、この核ドクトリンの改定を承認した。今回の改定はロシアが「核の脅威を減らすために必要なあらゆる努力」をすることを強調し、「核兵器を含む軍事衝突」につながりかねない国家間の緊張の激化を防ぐことを目的としている。 また、核抑止は「仮想敵国に、ロシア連邦および(または)その同盟国に対して侵略を行った場合、報復が不可避であることを理解させる」ことを確実にしなければならない、としている。 これまで、ロシアの大統領や首相を歴任しているメドベージェフは、最近もウクライナのドニプロへの攻撃に使われたロシアの新型極超音速弾道ミサイル「オレシュニクの射程距離について、テレグラムで発言した。 「ヨーロッパは、このミサイルが核弾頭を搭載していたらどのような被害をもたらすか、撃墜は可能なのか、旧世界の首都までの到達時間はどれほどか、といったことに頭を悩ませている」 「答えよう。被害は受け入れがたいものになる。現存する技術でこのミサイルを撃墜することは不可能だ。勝負は数分だ」 ロシア領内へのATACMS使用を非難 「防空壕も役に立たない。唯一の希望は、ロシアが事前に発射の警告をすることを願うぐらいだ」と、メドベージェフは付け加えた。 彼はまた、ジョー・バイデン大統領がウクライナに対し、長距離ミサイルによるロシア領土内への攻撃を許可したことを批判した。すでにロシア領土へのミサイル攻撃は開始され、ロシアは報復にオレシュニクをウクライナの大都市ドニプロに試験発射した。 メドベージェフは、ウクライナが11月19日にアメリカ製ATACMSを使って国境のブリャンスク州を攻撃したことに言及した。「これはNATOによるロシアへの攻撃とみなすことができる」とし、「この場合ロシアには、ウクライナとNATOの主要施設に対して、大量破壊兵器による報復攻撃を行う権利が生じる。そして、それはすでに第三次世界大戦なのだ」と述べた。 核不拡散を訴える米シンクタンク、核脅威イニシアティブ(NTI)によれば、1991年にソビエト連邦が解体する際、ウクライナは領土内にあった戦略核弾頭と戦術核兵器6100発を放棄せよという国内外からの圧力に直面した。 1994年にウクライナはこれらの要求を受け入れ、「安全保障に関するブダペスト覚書」に署名した。この条約により、ウクライナは、新たに獲得した主権と領土をロシア連邦が尊重するという保証と引き換えに、1996年半ばまでに全核兵器のロシアへの譲渡を完了した。 核放棄したから侵略された ウクライナは今日まで原子力を大いに利用しているが、核不拡散条約に加盟しているため、核兵器の保有を試みたことはない。 だが、2022年にロシアが本格的なウクライナ侵攻を開始したことで、多くの世界の指導者たちが、ウクライナに核兵器を放棄させたことを後悔するようになった。 2023年4月、アメリカ大統領として1994年のブダペスト覚書を取りまとめたビル・クリントンは、アイルランドのRTE放送に対し、ウクライナがまだ核を保有していればロシアは侵攻しなかったかもしれないと語った。 「個人的な責任があると感じている。私がウクライナに核兵器の放棄を同意させたのだから」と、クリントンは述べた。「ウクライナが今も核兵器を保有していたら、ロシアはこのような暴挙にでなかっただろうと、ウクライナでは誰もが思っている」 今年10月中旬にブリュッセルで演説したウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ドナルド・トランプ前大統領と9月に会談した際、ロシアの侵略を抑止するためにウクライナは核兵器を開発する必要性がある、と訴えたことを明かした。 核開発したいのがウクライナの本音 「ウクライナは自国の防衛のために核兵器を保有するか、あるいは核保有国と何らかの同盟を結ぶか、どちらだ」と、ゼレンスキーはトランプに言ったという。「今のわれわれには、NATO以外、効果のある同盟関係はない」 だがゼレンスキーは同日、マーク・ルッテNATO事務総長との記者会見でこの発言を撤回した。 「核兵器やそれに類したものを作る準備をしているとか、そのようなことを話したことはない」と、ゼレンスキーは述べ、あのコメントは、ブダペスト覚書の失敗を悔やむ気持ちが表れたものだと語った。
マヤ・メヘル