患者が増えて「トク」⁉…「健診基準値」のウラに隠された「黒すぎる」思惑と誰も知らない「基準値の真実」
毎年1回は受けることが義務付けられている職場健診。健診結果の異常を示す「*」がついた数値には、実は気にしなくて良いものもあれば、今すぐに再検査を受けなければならないものもある。果たしてあなたは診断結果の本当の意味を理解しているだろうか。 【漫画】くも膜下出血で倒れた夫を介護しながら高齢義母と同居する50代女性のリアル BMI・血圧・尿糖・眼底など項目別にその検査結果の正しい見方を解説した『健診結果の読み方』(永田宏著)より一部抜粋してお届けする。 『健診結果の読み方』連載第11回 『1分で終わる簡単検査で「命を救える」!? 呼吸器検査で発見できる「重大な病気」の正体とは』より続く
「基準」はどのようにして決まる?
検査項目の多くは、基準値(基準範囲)が決まっています。検査結果の紙にも印刷されていて、基準値から外れると「*」マークが付くのはご存知のとおりです。しかし基準値がどういう数値を元にして決められているか知っているひとは、あまりいません。 人間の様々な指標(身長・体重や血圧など)を計測すると、多くの場合、釣り鐘型の分布(正規分布)になることが知られています。そこでこれを医学に応用したものが、健診などで使われる基準値です。 まず医師によって「健康」と判定された人を大勢集めて、目的とする指標を測定します。正規分布ですから、中央付近は人数が多く、裾野に向かうほど人数が減っていきます。つまり分布の中央付近にいるほど「普通」であり、裾野の両端に行くほど「珍しい」というわけです。
基準値の「95%ルール」
ただしこの段階では、単に珍しいだけに過ぎません。もともと医師が健康と見立てた人たちですから、珍しい数字が出ても、その人は健康に違いありません。 しかし逆に病人だけを大勢集めて測定すると、「普通」に入る人が少なく、「珍しい」人の割合が高くなっています。そこで正規分布の上位と下位を適当に線引きすると便利だということになり、上下各2.5パーセントを除いた範囲を「基準値(基準範囲)」と呼ぶことにしたのです。 ただそう決めたことにより、健康な人でも確率的に100人中5人が、基準値から外れることになってしまいました。しかし健診の項目は多岐にわたります。20~30項目は当たり前です。 そうなると、全項目で基準値内に入るひとは、かなり珍しくなります。20項目の健診で、すべて基準値内というひとは2~3割とも言われています。逆に言えば、基準値を外れる項目がいくつかあったとしても、それだけで不健康とは言えないということです。 ただし健診の項目のなかには、この「95パーセント」ルールから外れているものもあります。BMI、空腹時血糖値、LDLコレステロールなどです。健診は主に生活習慣病の予防を目的としているので、本来の基準値よりも厳しい数字を入れているのです。 なかでも血圧は極端な例です。実は1987年以前は、高血圧の明確な定義がなく、「年齢+90~100」といったザックリとした目安に基づいて、各臨床医が診断を下していたのです。その状況は欧米でも似たり寄ったりでした。 その後、1980年代に入って、アメリカで血圧と脳卒中や心臓病の関係の研究が進んで、上180以上を高血圧としようということになりました。