患者が増えて「トク」⁉…「健診基準値」のウラに隠された「黒すぎる」思惑と誰も知らない「基準値の真実」
「基準値」次第では数千億円ものお金が動くことも
日本でも1987年に、同様の基準が採用されたのですが、この基準に沿って高血圧と診断された患者は、全国で180万人に過ぎませんでした。 しかし2000年前後から、世界中でさらなる高血圧の基準の見直しが進み、2008年にはついに130以上が高血圧とされてしまったのです。その結果、日本人の3人に1人が高血圧と言われるぐらい、患者が(潜在患者も含めて)増えてしまいました。 この基準には出た当時から批判が多く、2014年には日本人間ドック学会が「上147、下97までは正常」と発表したのです。これに日本高血圧学会が強く反発。お互いにしっかりとしたエビデンスを掲げて主張しているだけに、落としどころが難しい。 結局、今日では「上140以上、下90以上」を高血圧と呼ぶようになっています。ただ日本高血圧学会は、いまでも「上130未満、下80未満」を目標値として掲げています。 また高血圧を巡っては、製薬メーカーや食品メーカーも強い関心を抱いています。 今世紀に入って基準値が厳しくなり、患者が急増したお陰で、製薬メーカーの売り上げは急拡大しました。さらにトクホ(特定保健用食品)や健康食品業界も参戦して、いまでは合計で1兆5000億円とも2兆円とも言われる「高血圧市場」を形成しています。もちろん家庭用血圧計や血圧が測れるスマートウォッチも売れています。 高血圧の基準値を130から147にされたのでは、数千億円分が吹っ飛んでしまいますから、基準値は単に医学上の問題だけでなく、高血圧市場を支える各企業にとっても大問題です。そして各企業とも、製品と広告を通じて、全力で日本高血圧学会の基準値や目標値をサポートしているのは、ご存知のとおりです。 『「鉄分が足りているか」を知るためにはココを見よ! 血液検査で注目すべき「意外な項目」』へ続く
永田 宏(長浜バイオ大学バイオデータサイエンス学科教授)