「競輪の変化は先読みしていた」名伯楽・高木隆弘が明かす弟子への思い「北井佑季のレベルアップは必然、まだ強くなりますよ」/独占インタビュー
どんな人でも強くなれる、指導の秘訣は「情熱を絶やさないこと」
ーー高木さんの中で「強くなる選手」はわかるものでしょうか?それとも誰が来たとしても「オレが強くしてやる」という感じなのでしょうか? 高木 僕の場合は後者ですかね。僕自身も努力して何としても強くしてあげたいし、責任を持ってやりたい。この選手は素質があって強くなるだろうから面倒を見よう、とかはありません。高木真備も最初からいいものは持っていたけど、そんなに強かったわけではないと思いますよ。 ーーそうなんですね。 高木 でも高木真備は信じてやり込んで、自分の目標達成に向けて尋常ではなくスイッチが入っていました。みんな僕のことを「厳しい厳しい」と言いますけど、一時期の真備ちゃんの厳しさはすごかったですよ。僕から「もう遅いし帰ろうよ」って提案したことだってあります(笑)。 ーー逸話ですね! 高木 最終的に本当に強い選手になりました。それこそ、北井が良いタイムで走れるようになってきた頃に真備ちゃんが追走する形でバンク練習をしてたんですが、2コーナーから綺麗に出て行ってましたからね(笑)。その頃の北井は当然今の北井の強さではないですが。それでも完成形になっていた真備ちゃんは驚くべき強さでした。グランプリを勝った時は本当に嬉しかったなあ。 ーー師匠としてグランプリのゴール線の真備さんを見たときどんな気持ちでしたか? 高木 「肩の荷が降りた」という感覚になりました。そして本当に自分のことよりも嬉しかったです。 ーー高木さんから見て、強くなる選手に「共通点」のようなものはありますか? 高木 僕が育成をしてて思うのは、「信用してくれる選手」というのはあるのかな、と思います。言葉をしっかり受け取って、その言葉を信じ切って練習に打ち込む選手。信じてやるのか半信半疑でやるのかで「成果」は変わります。これをやったら強くなると信じて頑張って、それで成果が出てくると、「またやっていきたい」にも変わるし、好循環が生まれます。だから質の高い練習をモチベーション高くやるから、どんどん強くなって行ける。 ーーなるほど。 高木 だから僕も信用してもらえるように真剣に強くなるメニューを組むし、教えられる側の情熱を絶やさないように心がけています。 ーー情熱を絶やさないように、とは。 高木 どうやったら自転車が進むのか、どうやったら強くなるのかを聞いてくるわけですから、絶対に「聞いてよかった・やってよかった」と思ってもらえるようなことを伝えたいじゃないですか。「なんだこんなもんか」と思われたくないです。それと同時に、結局はやる気を引き出してあげられるかどうか、がすべてだと思ってますから、僕の言葉や考え方を押し付けたり、可能性の芽を潰すような線をこちらから引くようなことはしません。 ーー師匠側にも哲学があり、情熱があるのですね。 高木 はい。競輪選手の育成も子育ても一緒だと思います。成長したいって願っている人の情熱を削がないこと、むしろ情熱をさらに燃やしてあげるくらいでいい。人は願えば何にだって成れますよ、なりたいようになれる。そのために必要な努力さえすれば。子どもや若い人たちは特に、ですよ。その人たちにどんな言葉をかけてどこまで信頼してもらえるか、これを日々考えています。 ーー師匠から見て、弟子はどのような存在なのでしょうか? 高木 “分身”です。厳密にいえば分身なんて言い過ぎかもわからないね(笑)。でも自分がやってきたことを惜しみなく後輩に伝えて、その後輩の走りを分析して最適な練習で鍛えて、それだけではなく今の競走形態・レーススタイルにおいてどう勝負するかを先読みしてアドバイスを送る。僕も人生を懸けてやっているし、家族に向ける感情と同じような色合いになってくるんです。同時に僕自身も弟子の勝ち負けを通じて挑戦しているということ。かけがえのない存在なんです。 高木隆弘は「指導する相手の情熱を絶やさないこと」をコンセプトに育成をする情熱的な指導者だった。考えを押し付けず、個人個人の考えを尊重する。しかし、自身の指導が的を得ているとき「全面的に信じてくれ、オレが勝たせてやる!」という信念も持ち合わせている。弟子の存在については「人生を見るわけだから、家族と一緒ですよ」と楽しそうに笑っていた。一時代を築き、今も現役として戦い続けているタイトルホルダーはなぜ、選手育成にここまで本気になったのかーー。(後編に続く)