「競輪の変化は先読みしていた」名伯楽・高木隆弘が明かす弟子への思い「北井佑季のレベルアップは必然、まだ強くなりますよ」/独占インタビュー
先読みしていた“2周突っ張り先行”の時代
ーー弟子の北井佑季選手は突っ張り先行で2周行くスタイルを確立していますが、これは今の時代の競輪に合う走りとして師匠が教えたのでしょうか? 高木 いえ、少しニュアンスが違います。もうずっと前から“先読み”して想定していたんですよ。時代に順応した走りを教えたというよりも、すでに「こうなっていくだろう」と予測した先読みをした上でメニューを組んでいました。 ーー先読みですか…? 高木 北井がデビューしてからずっと一緒にマンツーマンでやっていますけど、「競輪はおそらくこういう流れになって、こういう競走形態になっていくだろうから、こういう練習をいち早く取り入れよう」ってやってきています。絶対にそうなるから、その時に一番になる状況を作るぞ!って。かなり前から今みたいな感じになることを狙い澄ましていましたよ。 ーー今、北井選手は完全に頭角を現して、昨年に比べて今年はもう一段階レベルアップしている印象です。この躍進は想定内だったということでしょうか。 高木 はい、もちろんです。後ろから押さえても絶対誰しもが突っ張るような競走スタイルが流行するっていうところの先読みですからね。それに対する効率の良い鍛え方、トレーニングを北井はずっとこなしてきているわけですから。踏める距離は徐々に伸びていくし、さらにダッシュも徐々に強化されていくのは当たり前です。昨年からのレベルアップは必然だと思います。 ーーすごいです。 高木 おそらく北井自身、もうそんなに苦しいと思って2周先行してないと思いますよ。こうすればいいんだろうなっていう冷静かつ当たり前のもとにやれていると思う。 ーー北井選手はタイトルを取れると思いますか? 高木 もちろん獲れると思います。先読みしている材料の中でも、強くなるために「今はあえてやっていない・やらせてない」こともあります。このまま成長を続けてくれるでしょうし、タイトルはあると思います。 ーーあえてやってない・やらせてないが気になります。 高木 今後楽しみにしていてください。まずは強い先行力が前提。長い距離をもがけることが前提、ということです。一流になるためには強くしていく順序があるんです。まずはツラいことからやった方が良くて、最初に「ラクに勝つ」を覚えてはいけない。 ーーまだまだ引き出しが増えていくということでしょうか? 高木 技術的な引き出し、戦法の幅は広くなっていくと思います。もっとも北井の吸収力次第な面もありますけどね。 ーーちなみに高木さんから見て北井選手の第一印象はどんな感じだったですか?ここまでの選手になると最初から思っていましたか? 高木 第一印象で「このくらいになる」とかはわからないし、何も思いませんでしたけど。「本当に僕には時間がないんです」という雰囲気が印象的でしたね。奥さんも子どももいる状況で、サッカーから転向して「競輪で生計を立てていきたい」って言ってるわけで。養成所試験も1回で受からなかったら僕は諦めます、とも言っていた。まさにカツカツの状態というか、最初に会った時から北井の気持ちはひしひしと伝わっていました。 ーー昨年netkeirinで北井選手にインタビューをしたのですが、「高木さんは一貫して厳しい人」だと話していました。最初のあいさつの時から「飯をいっぱい食べるように」と指導されたそうですね。「その時から今までずっと高木さんは厳しい」と楽しそうに話をしていました。 高木 そんなこともありましたね(笑)。僕も師匠に「とにかく食え」って言われてたんですよ。どんなに食っても太らないほど練習をやるんだけど、「養成所卒業するまでに20kg増やしてこい」って指導されてました。北井も最初会った時に体の線が細かったので、あいさつの段階で飯をたくさん食べるように、その場で指導開始しました(笑)。 ーーやはり一貫して厳しいですか? 高木 僕はそうは思ってませんけどね。でも自分のところに来てくれて「競輪で生計を立てたい」と言ってるわけなので、重く受け止めました。他人の人生を請け負うような感覚だから、自分のことより重いんです。練習の“量”だけでいうなら、僕の方がやっていましたが、僕は無駄な練習もやってきていた。北井には無駄な練習をすべて省いた「迅速に強くなるための超効率的なメニュー」を組みました。無駄の一切ない凝縮されたものです。その点は北井、ツラかったと思います(笑)。凝縮されているので(笑)。 ーー想像を絶するものがあります。 高木 でも北井は自転車未経験でしたしね。最初のころ発走機で怪我をしてしまったんですよ北井は。1度しか受験しないと決めているのに、準備期間が正味4か月くらいしかなかったんですよ。厳しくなるのは当然ってことで(笑)。