片岡義男の「回顧録」#3──道路はそのままで小説になる 『湾岸道路』と『夜霧の第二国道』
■AMFからの独立とニュー・エンジンへの転換
ヒット作を生み出したハーレーではあったが、環境問題に対応するための設備投資の増加などにより、会社を取り巻く状況は80年代になっても相変わらず好転しなかった。しかし、それが逆にAMFにハーレーを売却するという決断を下させ、ハーレーは「売却されたハーレーを自ら買い戻す」ことで再び独立に成功。81年には「ハーレーダビッドソン・モーターカンパニー」として再出発を果たした。そして新生ハーレーが84年に採用したのが新しいエボリューション・エンジンだった。 ハーレーの歴史はエンジンの歴史でもある。29年のサイドバルブから始まり、初のOHVを採用した36~47年のナックルヘッド、シリンダーヘッドが鍋に似ていることに由来する48~65年のパンヘッド、同じくシャベルに似た66~84年のショベルヘッドと、ハーレーのエンジンは絶え間なく進化してきた。そしてこのエボリューションは、AMF傘下で失った顧客の信頼を回復すべく、コンピューター解析による設計と高度な品質管理が行われたエンジンだった。85年、この新型エンジンを搭載して信頼性を向上したローライダーは、さらに従来のグライドフレームに代わって、すべてをアーク溶接で仕上げた新フレームも採用。「FXRSローライダー」と名付けられたこのモデルは、スポーツエディションやコンバーチブルといった数々の派生モデルを生み出した。また、93年にはダイナグライドフレームという剛性の高いダブルクレードル式フレームに変更され、その名称から「FXDLダイナ・ローライダー」と呼ばれることになった。
■動力性能の向上、そして新しいローライダーへ
99年、ハーレーのエンジンはそれまでのエボリューションからカムを2本に増やした「ツインカム88(88キュービックインチ=1,450㏄)」となる。この変更は大排気量時代にふさわしい快適なクルージング性能を得るためで、04年には環境対応によるインジェクション化(FXDLIローライダー)も実施された。ツインカム88はその後、排気量を96、103と拡大し、2016年にはついに1,801㏄のツインカム110を搭載した「FXDLSローライダーS」が発売された。FXDLSローライダーSは、基本的にはFXDLローライダーにツインカム110を搭載したモデルであるが、そのスタイルは大きく異なっている。渋いブラックに統一されたカラーリングに精悍なビキニカウル。日本人デザイナーが手掛けたというその外観は、驚くべきことに初代ローライダーと同じ77年に登場した伝説のカフェレーサー「XLCR1000」へのオマージュそのものだった。デザインモチーフを同じ年に誕生したもう一台の歴史的ハーレーに持ってくるとは、その遊び心のなんとも粋なことか。メーカー純正カスタムとしてウィリー・Gが生み出したローライダーは、「低く、長い」という伝統を守り続けながらも、カスタムという本質を見失ってはいなかった。伝統と変革を併せ持つローライダーは、いつでも新しい可能性を模索し続ける存在なのだ。
文=KURU KURA編集部 写真協力=ハーレーダビッドソンジャパン 参考資料=ハーレーダビッドソンの100年(八重洲出版)、100 YEARS of HARLEY-DAVIDSON 日本版(ネコ・パブリッシング)、ハーレーダビッドソン80年史(グランプリ出版) (JAF Mate 2017年1月号掲載の「片岡義男の「回顧録③」を元にした記事です。記事内容は公開当時のものです。)
文=片岡義男/KURU KURA編集部