【高校サッカー選手権】「0-7」の屈辱を糧に、全国で勝てるチームへ 奈良育英が4年連続の奈良県王者に
11月10日、第103回全国高校サッカー選手権奈良予選の決勝が橿原公苑陸上競技場にて開催され、4連覇を狙う王者・奈良育英が、令和6年度全国高校サッカーインターハイ(総体)奈良予選優勝校の生駒を3-1で下し、4年連続17回目の全国大会出場を決めた。 【フォトギャラリー】生駒vs奈良育英 王者は揺るがなかった。昨年の決勝戦、2月の令和5年度奈良新人戦(新人選手権大会)決勝、6月のインハイ予選決勝と4大会連続で同カードとなった、名実ともに奈良県の高校サッカーを引っ張る両校の戦い。直近の総体予選では、幾度となく決定機を作った奈良育英攻撃陣を、最後まで封じ込め、2本のシュートで2点を奪った生駒に軍配があがっていた。 互いの手の内を知り尽くした両校だけに、どちらが立ち上がりに主導権を奪うかに注目が集まる中、先手を奪ったのは奈良育英だった。準決勝の一条戦では序盤の入りが悪く、早い時間に失点。ゲームメーカーのMF有友瑠(3年)が「このままだと絶対決勝で負けてしまうと監督からも言われた。もう一度気を引き締めてやろうと、練習から強度を高くしてきたので、それが今日の出来につながったと思う」と語る通り、試合開始直後から持ち前のハイプレスを発揮。前線でボールを奪ってからのショートカウンターで、何度も相手ゴールに迫っていった。 立ち上がりから攻勢に出た奈良育英が、ついに均衡を破ったのは前半14分。何度もゴールに迫りながらも決定的なシーンを作れずにいた中で、ペナルティエリア外でボールを受けたMF西村優士(2年)が思い切りのいいミドルシュートを沈めて先制点を奪った。奈良育英・梶村卓監督が「あの時間にとれたのは凄く大きかった」と語る値千金のゴールで、“夏の悪夢”を払拭した。こうなると試合は奈良育英ペースに。エース藤川陽太(3年)らが両サイド裏のスペースに走り込み、何度も生駒ゴールを脅かすが、生駒も守護神・石丸裕基(3年)やDFリーダーの久保田蒼大(3年)らを中心に粘り強く対応する。 次の得点シーンが生まれたのは前半終了間際の37分。右サイドでボールを受けた有友が、切り返してから得意の左足でシュートを狙う。石丸が弾いたところを、藤川が見逃さず、冷静にゴールに流し込んだ。「有友は左足のシュートがあるので、キーパーがこぼすかもと思って狙っていました」と藤川が自賛するストライカーらしいゴールで、奈良育英が追加点をあげた。勢いにのった奈良育英は直後の40分、今度は藤川の右サイドの突破から、折り返しをMF森嶋大琥(2年)が右足で合わせて3点目のゴール。梶村監督が攻撃のキーマンにあげる2人のアタッカーのゴールで試合の流れを決定づけた。 前半だけで3点を追う形となった生駒。古田泰士監督は「ファースト(コンタクト)は勝っていたので、セカンドボールの回収をもっと徹底してやろう」と、ハーフタイム中に指示。準決勝・法隆寺国際戦でも途中交代から得点を決めているMF大下美智(2年)をピッチに送り出した。監督の指示通り中盤でボールホルダーに対する圧力を強めた生駒は、奪ってから素早く両サイドのDFの背後にボールをおくる攻撃で、奈良育英ゴールに猛攻を仕掛ける。すると後半6分、DFとの競り合いから抜け出した大下が、GKとの1対1を制し、華麗なループシュートで1点を返す。疲れの見え始めた後半20分過ぎからはよりオープンな展開に。両チームともに何度もチャンスを作り出したが、追加点を奪うことは出来ずに、そのまま試合は終了。奈良育英が王者としての貫禄を見せつけた。 「0-7」の屈辱を糧に、全国でも勝てるチーム作りを目指してきた。昨年の第102回全国高校サッカー選手権1回戦。埼玉の強豪・昌平と対戦した奈良育英は、攻守に圧倒され0-7のスコアで敗れ去った。その試合にFWで先発出場していた有友は「相手はプレミアの高校トップレベルのチームなので劣勢になるとは思っていたけど、一人一人の個々の能力、スピードやフィジカルが違った」と、レベルの差を痛感した。1年時から全国大会のピッチに立つ竹田秦&谷川琉希也(共に3年)のDFコンビをはじめ、全国経験者が多数揃う学年とあって、新チーム結成時には「奈良で勝つだけじゃいけない。昌平戦がいい経験だったと思えるように、しっかり全国で戦えるチームというのを目指してやっていこう」(有友)と話し合い、練習から高い意識でチーム力を高めてきた。 そんなチームも、夏の総体では生駒に敗れ、更なる挫折を味わった。「夏に負けてまだ全国で勝てるようなレベルじゃないと分かった。夏休みには全国レベルのチームと対戦して、勝ち癖もついてきたので、手ごたえはあります」と主将をつとめる竹田は語る。横浜FCユースをはじめJユースや全国の強豪との練習試合を経て、前からハイプレスをかけ、敵陣地で時間を使う攻撃を形にしてきた。竹田は「全国で勝つためにずっとやってきた。去年の自分たちが足りないことを痛感させられるような試合ではなく、しっかりと勝ち切りたい」と、自信を口にする。 一方で、失点を含む後半の戦い方に関しては「後半は、押し込まれてだいぶ疲弊し、足が痙攣している選手も多かった。うちの戦力で、全国で戦おうと思うと、もっと全員のハードワークが必要」と、梶村監督は反省を忘れない。4年連続での奈良県代表となり、「1年生から全国の本戦を経験している選手もいるのでこれまでより経験値はあがってきている。あとは思いきって自分たちが準備してきたことをやれるか」と力強く語った指揮官。まずは奈良県王者として、第100回大会1回戦で専大北上に4-2で勝利して以来、3年ぶりの選手権での勝利を目指す。 (文・写真=梅本タツヤ)